戯れに可穂さま本をプレゼントとして選択する
         

 大学時代の先輩が入院した。
 わあいわあいお見舞いだお見舞いだ、奥さんに会おう!
 と、本人の「あまりお気をつかわれぬよう」なんてメールはまるで無視して、わくわくと奥さんに連絡をとり、見舞いと、その前の奥さんとのランチ、の段取りをつけた。
 実は入院した本人も奥さんも、大学のときの先輩である。
 1年生のときの3年生。わたしの入っていたサークルは(大きな声ではいえないけれどSF研)、わたしが1年生のとき、2年生に女性がひとりもいなかった(ちなみにわたしが卒業した後数年たって、女性はゼロになった)。数少ない女性サークル員のためか、男性サークル員の鼓舞のためか、3年生の先輩たちは校舎が違うのにしょっちゅう顔を出してくれていた。その方々のうちふたりが結婚したのだ。ま、このサークルの話は本気で語ろうと思えば長くなるので、これくらいにしておく。
 さて、入院。といえば、見舞い品に花とかお菓子とかパジャマとか……いろいろ思い浮かぶが、これに関しては最初、本人から「退屈なので本がいい」というご指摘があった。
 本。
 オススメ本サイトなんてやっている身でいうことじゃないが、他人に本を贈るのは難儀である。相手が持っている可能性だってある。好みがあわないと、悲劇的。わたしはかつて、「この本がハズレだったら何でもする」という話で読み始めたルディ・ラッカーが肌に合わず、だからといって何をしてもらうわけにもいかず、苛立った記憶がある。人の好みはかように難しく、しかしだからこそより一層選びがいはあるのかもしれない。
 入院している先輩はもちろんSF研出身者だが、なんだか最近は中国の歴史モノとかが多かったような記憶がある。宮城谷とか。それでもイーガンは読んでいて、入院直前、見舞い品は「犬は勘定に入れません」で。との指定があったが、それはあっさり他の人の担当となった。さあて。イーガンとウィリスと中国歴史モノ。いやいや、昔はマキャフリイの「歌う船」とかソウヤーとかも読んでたはずである。さあ、そういう人への本のプレゼントは……
 ということで、可穂さま本の選択にとりかかった(笑)。
 いままでのフリはなんだったんだ、と思われるかもしれないので一応いいわけをしておくが、「香水」(歴史モノに近い? し、ともかくハズレはない)と「五人姉妹」(これは賭けに近かったが、未読だと踏んで。マキャフリイとウィリスが好きならいけるんじゃないかと…やっぱ、SFも混ぜないとまずいし)は選択ずみ。これくらい相手の趣味に合わせたんだから、あとはわたしの趣味につきあってよ! ということで。しかも、可穂さま本については絶対持っていないことの自信があった。一年ほど前、わたしが大絶賛してしていた時(注)に同席していた人だが、その後に読んだという話も聞いていないし。好み……からは多少ずれるかもしれないが、ハズレではない。
 寝転がって読むのに軽い方がいいだろうと思って文庫本コーナーへ。
 女の子にススメるときには、「猫背の王子」「天子の骨」のセットか、「白い薔薇の淵まで」をススメることが多いのだが、猫背は裏表紙に最初の一行が書いてあるしね…そこで引かれちゃったらまずいし。じゃあ、「白薔薇」。ああ、「サグダラ・ファミリア」もいいかもしれない! よおし、この二冊。 
 しかし書店に「サグダラ・ファミリア」はなく、仕方なく「白薔薇」だけを持って、さらに他の選択がないかうろうろする。
 うろうろしているうちに……「白い薔薇の淵まで」って、男性が読んでどうなのかな、とふと不安になった。いい話だ。とってもとってもいい話だ。でも、あそこに出てくる男っていいやつだっけ? 評論家と編集者と旦那と……あ。あの旦那ってなんだか幼児がえりしちゃうんじゃなかったっけ。
 そう思いはじめたら、この本を気に入ってくれるかどうかが不安になった。ラストシーンの受けとめかたもいろいろだし。塁……はいいけど、可穂さま作品の海外逃亡の描き方でいえば、「マラケシュ心中」のほうがわたしとしては好みだ。
 改めて「猫背」にひかれる。ただしそこには「天使」はなく、セットにすることは不可能。しかし、男性登場人物のよさ、ということでいえば、トオルのよさをわかるためには、どうしても「天使」は外せない。
 この時点で、可穂さま本の選択基準が作品そのものから「男性登場人物」の評価へとズレているのだが、そのときのわたしはそんなことには気づいていない。次々にいろんな作品を考えてみるが、家庭内暴力をふるうやつだったり、のび太くんみたいに優しいけどおしがイマイチだったり、ゲイだったり影が薄かったりして、なんていうか男性が読んで共感できるかな? と思ってしまった。
 いい男――やっぱイチオシで孝太郎さんか。ここはもう、ハードカバーで「花伽藍」だな! とハードカバーの売り場に行くが、なんとそこには「ジゴロ」しかなかった。売れ行き好調なのか単に品揃えが悪いのか微妙な状況に動きが取れなくなる。うむむむ……。しかも思い返せば孝太郎さんっていい人はいい人だけど、不倫直前までいくし、そういう意味では誠実じゃないかも。「ジゴロ」に男が出てきたっけ? うーん、たしか高校生の男の子が出てきたな、こいつはさわやかでよかったけど、単なる脇役だったかも。
 頭の中を、男性女性、いろんなキャラがぐるぐるした。いろんなシーンが浮かんできて、評価があがったり下がったりする。あのシーンはいいんだけど、あれはねえ……とか。
 そして、もうあきらめかけたとき、――あ、マツキヨがいるじゃん! とひらめいた。
 「深爪」
 ばった切りしちゃうと、「妻に逃げられた夫が、息子のために女装したらヤミツキになり、コンビニで男を引っ掛ける寸前を妻の元恋人(女)に引きとめられる話」である(未読者のために伏字)。こんな切りかたをしていると信じてもらえないかもしれないが、わたしの中の可穂さま作品ランキングではかなり上位にくる。
 子持ちの既婚者にはいいんじゃないか?(笑)
 あとで自分のオススメ文を読み直してみたら、「初心者向け」とか書いてあるし。うんうん、これはけっこう妥当な選択かも。
 読了後の感想を聞くのが楽しみなような怖いような。


 思い出せばいまから十年ほど前になるが、わたし自身が入院とまではいかないが、交通事故で一週間ほど寝たきりになったとき、やっぱりわたしもほしい本をリストにして持ってきてもらった。わたしの本棚にはそのときの創元社ディック本がけっこうずらりと並んでいる(笑)。
 いまなら……このオススメ本リストに一度も出てきていない作家の作品で、絶対のオスメ! という海外SF本。スペースオペラ、サイバーパンクのぞく。というお願いだろうか。あー、でも好きな作家なのにフレドリック・ブラウンの本とか…書いていないし。ちょっとやばいかな。
 まあ、そんなことは考えずに、とにかく身体は大事にしよう。
 みなさまもお大事に。




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