いけない、いけない、何も考えちゃいけない。
               
    「夕飯は七時」(「いのちのパレード」所収) 恩田陸  実業之日本社

 真面目な兄貴とちびの妹のあいだにはさまれた「僕」の家では、夕飯はいつも七時。それまでは暇だから、仲良く遊んだり、うちの中で勉強したりする。困るのは、夕飯を作りに来てくれるおじいちゃんが、僕たちの知らない言葉を口にしちゃうときとか、おじいちゃんのつけたラジオからニュースが聞こえてきちゃうときで――だって。「しゅうわい」ってなんだろう。「きそ」ってなんだか鳥の名前みたいだな、なんて思った途端、想像どおりのものが出現しちゃうのだ。それはきょうだい三人の想像力がまぜこぜになるとさらに威力を発揮するわけで、だから今日、おじいちゃんがふと口にした言葉……「テトロドトキシン」に反応しちゃった三人は、とんでもないものを生み出してしまう。
 想像力豊か(?)な三人兄弟を描いた「夕飯は七時」をはじめ、奇妙で不条理な出来事を描いた作品が収められている。雰囲気的には佐藤哲也とか三崎亜記を思わせるような気もするので、この本が気に入ったなら、ぜひ「ぬかるんでから」「バスジャック」なども読んでもらいたい。
 きちんとオチがついた話ばかりではなく、よくわからない世界でよくわからない会話を交わす人たちが、よくわからない出来事に対応しただけで終わってしまうような短編もある。ただ、いままでの恩田陸作品よりは「ショートショート」に近いせいか、オチがないからといって許せないわけではないし、むしろ、この人、短編や長編より、意外にこういうタイプの小説に向いているのかも。この本の帯には「恩田ワールドの原点」とあるが、それならそれで、下手にオチをつけるのに失敗しちゃったような小説を書くより、いままでもこの長さでまとめてくれてたほうが評価は高かったろうになあ……なんぞと不遜なことを考えてしまった。とりあえず、恩田陸に対して評価が低い人にもススメていいかも。




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