「我らは村を守るために命を捧げると決めた。たとえ時代が変わっても、我らの思いは変わらない。たとえ歳月が我らを衰えさせても、決して思いは枯れない。たとえ命果てても、我らは永遠に村を守り続ける」
         
        「ぼくのキャノン」池上永一  角川文庫

 第二次世界大戦中に帝国陸軍が配備した九六式カノン砲。グスクのほとんどが破壊される中、奇跡的に残ったその砲台を、九六式カノン砲と呼ぶ村人はだれ一人いない。キャノン様。村を守り、村人を守り、そして逆らう者には祟りを与える、ありがたくも恐ろしい存在である。だが、実際にはキャノン様をそのような存在とするために働いているのは、村の巫女であるマカトオバァを中心とした老人三人組。村を守るために命を張る樹王、村の繁栄のために盗みを生業とするチヨオバァ。いつしか気力も体力も衰え、世代交代を迎える時期が迫っていたが、彼らの孫である雄太、博志、美奈の三人はまだ小学生。村を楽園と信じ、かげりのない未来を信じる幼い存在にすぎなかった。しかし、そんな村にあやしげなアメリカ人の調査隊や、村の一部にリゾートホテル建設をもくろむ小野寺トラストの魔手が迫っていた……
 などと書くと、なんだか小難しい話のようだが。
 キャノン様を支える寿隊(なにかあるとフォーメーションを作って敵(?)を撹乱させる美女軍団)や、小野寺トラストの代表で、あまりに金持ちすぎてモノに一切執着せず、片っぱしからいろんなものを捨てまくる最強の性格の持ち主、紫織(池上作品をご存知の方なら、サマンサ・オルレンショー(「レキオス」)とか、モモコ姉さん(「シャングリ・ラ」)とか……が思い浮かぶだろう。まあ、それでいうなら、寿隊は真美那(「テンペスト」)が集団化したようなものだ)、したたかなオバァに、天真爛漫な野性児である孫三人といった、強烈な登場人物たちがおもしろく、物語の世界にぐいぐい引き込まれてゆく。
 沖縄の明るい陽光のもとに、復活と再生を描いた物語。オススメ。



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