「あたしたちは友だち?」
「そうね、あたしはあなたの友だちになりたい」
「どうして?」
      
 「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」(「ブルー・シャンペン」所収)                            ジョン・ヴァーリイ (浅倉久志訳) ハヤカワ

 「バービーはなぜ殺される」では警察署長だったアンナ=ルイーゼ・バッハのそれ以前。表題作「ブルー・シャンペン」にもアンナ=ルイーゼは登場する。「残像」でも見せたようにヴァーリイの障害者を描くやり方はどこか特殊だが、「ブルー・シャンペン」はその中でも秀逸。四肢麻痺患者であるメガンが金細工と宝石とで飾られた人工骨格<黄金のジプシー>を身につけることによって自由を手にする。しかし、その自由には思いもかけない代償が……という、寂しさと苦さとをくるみこんだ作品は、さすがローカス賞受賞。アンナ=ルイーゼは出てこないが、いちばんはじめに収録されている「プッシャー」も、ヒューゴー賞・ローカス賞受賞だけあって、おもしろいし、深みもある。個人的にはラストの「PRESS ENTER■」(ヒューゴー・ネビュラ・ローカス・星雲賞受賞)もせつないラブストーリーとしても読めて大好きなんだけど……今回はチャーリイ。
 タンゴ・チャーリイ・ステーションは、三十年前、原因不明の疫病で全員が死亡、永久に封鎖された場所だった。ところが、そんなところから死んだ子犬が出てきたこと発見された。生き残った犬がいたのかもしれない。が、犬にはエアロックは開けられない。となれば、生きのびた人間がいるということだ。もしくは、非常に頭のいい犬が。アンナ=ルイーゼをはじめとした何人かが、必死でタンゴ・チャーリイと連絡を取ろうとする。
 タンゴ・チャーリイ・ステーションに暮らすのは、コンピュータのチクタクとたくさんの犬とに囲まれて暮らす少女、チャーリイ。彼女を救出する方法は果たしてあるのか。見かけの年齢は幼い少女に過ぎないチャーリイが、実際はアンナ=ルイーゼよりも年上だということがわかって、人々の興味は俄然高まってくる。「ブルー・シャンペン」に登場したメガンもふたたび現れ、無能な上司と有能ではあるが強引なメガンとのあいだで、なんだかんだいいながら、チャーリイのためにメガンを選択するアンナ=ルイーゼがまたいい。
 それにしても、この短編集に収められた短編の、ほとんどがなんらかの賞をとったり、ノミネートされたりしている。ぜったいオススメ、お買い得の一冊。



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