「わたしたちは、どんなことがあっても、きっと会えたはずよ。世界の果てからでも、宇宙の果てからでも。わたしたちはつながりあっているのよ」
         
 「炎の神シャーラ」 マリオン・ジマー・ブラッドリー(赤尾秀子訳) 創元推理文庫  ダーコーヴァ年代記4

 宇宙港の発着指令担当官のダン・バロンは奇妙な幻覚に悩まされるようになっていた。深い紫の空の下、冷たい風に身を任せ、高い城壁に立つ自分。山城の戦い、炎の中にたつ女神のような女性の姿。しかし、その幻覚のせいで彼は大惨事一歩手前の不注意を引き起こし、ついに降格の憂き目を見る。それは近代科学を持たないダーコーヴァ人に望遠鏡や顕微鏡といった技術を指導する役目だった。契約満了前に離職することもできず、しぶしぶその仕事を引き受けたバロンだったが、その頃、地球帝国本部とは遠く離れた山奥のストーン城は、弱々しい長に一族を守る術もないまま、略奪者ブライナット・スカーフェイスにより落城させられていた。
 ストーン一族はコミン七大氏族のひとつでありながら穏健で平和で満足した領主であり、ストーンのストーンと呼ばれる長男のローランは盲目の虚弱体質。それを妹や弟が支えることで静かに暮らしていたはずなのだ。だが、その暮らしも終わってしまった。末弟のエドリックは傷つけられ、長女のアリラはブライナットに陵辱される。だが、古代の魔法とも呼ばれるラランを密かに研究することだけを楽しみにしてたローランは、身体だけを残したまま、心はどこかへ彷徨っていた。彼は自由な心だけの存在になり、ストーン城を取り戻す方法を考えていたのだ。そして、選ばれたのがバロンだった――
 レンズの技術を教えるためにオルトン領へと旅するあいだ、バロンはダーコーヴァ人だと思っていたオルトン家の養子レリスが地球人であることを知る。慣れぬ風習に戸惑う彼を助けるレリス(ラリー・モントレー)と交わした友情の誓い。そして、地球人ではあってもラランを持てるのだという事実への驚き。そしてダーコーヴァへの認識を深めつつあるそのときに、バロンはその心と身体をストーンによって奪われる。バロンは果たしてもとの自分に戻れるのか。そして、他人の心を操るというコミンの掟に背いた行為をしたストーンが許される日は来るのか。それはなにもかも、ストーン城を取り戻してからのことだ。そしてそのためには炉の民が信仰している女神シャーラ、ダーコーヴァ人の集合無意識の力が必要だった。
 のちに大事件に発展することにもなるシャーラのマトリクスだが、今回は使用法限定ということで、扱われ方はやや違う。ダーコーヴァファンとしては、ラリーくんがレリスとなってふたたび登場することがうれしいところ。
 それにしても、異世界人(地球人)とダーコーヴァ人の恋愛が、こうしょっちゅうあるんだったら……どうしてああもルー・オルトンが虐げられていたのか。オルトン一族だってところが問題だったのかしら。ちょっと不思議な感じもしたりして。
(そういえば「宿命の赤き太陽」のカーウィンだって、遡ればオルトン一族の血が流れてるのだ)



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