「諸君、おもしろい情報がある」ルイ親王が、キャンプテンたちの食事の席に入ってきて言った。「ナポレオンが、なんとドラゴンを士官に取り立てたそうだ。そのドラゴンがフランス空軍のキャプテン連中に指示を出しているところが目撃されている」
             
 「テメレア戦記V:黒雲の彼方へ」ナオミ・ノヴィク(那波かおり訳) ヴィレッジブックス

 中国からイギリスへの帰還途中、ローレンスとテメレアのもとにオスマン帝国から英国が買い付けたドラゴンの卵三個を引き取ってから帰国せよとの命令書が届く。折しも長期の停泊を余儀なくされていた一行は、協議の末、タクラマカン砂漠を通っていくという陸路を選択する。そこは砂漠の日射や、高山での雪崩、野生ドラゴンたちの襲来と、次から次へと過酷な条件にさらされる日々だった。しかも、オスマン帝国の都、イスタンブールに到着した一行を待っていたのは、卵を引き渡すわけにはいかないというオスマン帝国側ののらりくらりとした抵抗。ついにローレンスは、強硬手段に出る。
 テメレア戦記第三巻。前巻でテメレアと争った結果、“守り人”であるヨンシン皇子を失った純白のセレスチャル種ドラゴン、リエン。その不吉な色によって人間からもドラゴンからも忌避されていたリエンにとって、守り人であるヨンシン皇子との絆はよりいっそう深いものであり、それゆえに、復讐に燃えたリエンは豪奢な中国の宮廷から、フランス軍という苛烈な戦場へと身を移す。ナポレオンの戦略に加えて、リエンによって組織されたフランス空軍を手に入れたフランス軍は、陸、海、空、すべてでイギリス軍を圧倒。援軍が来る気配もなく、ローレンスたちは早くイギリス軍に合流したいと焦りをつのらせる。
 今回の見どころは、ドラゴンの人権(?)に目覚めてしまったテメレアに閉口するローレンス、復讐心に燃えるリエン、そして火を噴くドラゴン、カジリク種の卵から孵った幼い竜、イスキエルカ。特に、イスキエルカは、生まれたときからおしゃべりで好戦的。生まれたてで何もできないのに、とにかく戦いたがるお転婆娘。テメレアまで振りまわされそうになる。
 といっても、二巻、三巻と懐かしい人々やドラゴンたちが出てこないのがさびしい。テメレアとローレンスたちではないが、早くイギリス軍と合流してもらいたいものである。次の巻が楽しみ。




「テメレア戦記T」
「テメレア戦記U」
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