「ぼくは習いだからあなたに従うわけじゃない。ぼくなら、レヴィタスみたいに我慢しない。ぼくがあなたに従うのは、あなたが従うのに値する人だから」
          
 「テメレア戦記T:気高き王家の翼」 ナオミ・ノヴィク(那波かおり訳) ヴィレッジブックス

 英国海軍リアイアント号は、フランス海軍との戦いで、思いがけず貴重なドラゴンの卵を手に入れた。本来、ドラゴンは空軍の所属であるが、陸から遠いいま、ドラゴンを守るのはイギリス軍人として当然の務めである。そしてリアイアント号の艦長ウィリアム・ローレンスは、孵化したドラゴンに選ばれてしまったことで、栄えある海軍艦長から、空軍士官へと転身する羽目になってしまう。重さ20トンにもなるドラゴンとともに暮らすために、空軍士官は誰もが社交生活とは無縁で、紳士である海軍との折り合いも悪い。そんなところにひとり放り込まれたローレンスを慰めたのは、どうやら中国産の貴重な稀少種であるらしいテレメアの天真爛漫なしぐさや、ローレンスにむける絶対の信頼だった。
 ――とにかく、おもしろい!!
 舞台は1805年のヨーロッパ、ナポレオンと戦うイギリス空軍である。ドラゴンの品種改良術には優れているが、いかんせん絶対数の少ないイギリスと、繁殖技術に優れ、圧倒的なドラゴンの数で圧倒するフランス。ドラゴンもののファンタジーではあるが、そうとひと括りにできないのは、ローレンスをはじめとしたドラゴンの担い手たちが成熟した大人の男女であり、彼らに率いられた副長や見習いたちとともに、集団でおこなわれる戦闘のリアルさだ。
 海軍調の規律正しい堅苦しさをなかなか拭えないローレンスに対し、ざっくばらんな空佐たち。テレメアをはじめとする、個性的で魅力的なドラゴンたち。なにせ、知的好奇心旺盛で読書好きのドラゴンなんて、いままでどんな本に登場しただろう。
 ローカス賞、ジョン・W・キャンベル新人賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート。「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンが映画化権を取得している。大人向けの上質なファンタジー。絶対のオススメ。





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