私はこの声を知っている。
 なぜ、気づかなかったのだろう?
 理由は何となくわかっていた。見えていたから。目に入るものによって、逆に耳を塞がれていたから。
               
 「バック・スペース」(「スペース」所収) 加納朋子 東京創元社

 静岡出身の駒井まどかは、短大入学を機に双子の妹はるかと離れ、ひとり暮らしを始めた。望んで家を出てきたはずなのに、さびしさでたまらなくなるときがある。そんなとき、裏手に建つ寮の窓から流れてきたのは、後輩のハヤミくんを励ましている、ひとりの男性の声だった。ぼそぼそと聞こえる声をつなぎ合わせながら、まどかはその人とハヤミくんとの関係を想像してみる。大学の先輩と後輩。どうやらつい最近、ハヤミ(そらくは速水)くんの大切にしていた女性が亡くなってしまったらしい。そして、先輩は毎日のように速水くんに電話をかけては慰めているらしいのだ。
 そんな日々の暮らしとは別に、短大での生活は女の子同士の嫉妬やら何やらがあって、ときにとっても窮屈だ。同じクラスの入江駒子と少し親しくしただけで、駒子と仲のよい女の子に意地悪をされたりして。そんなある日、東北旅行にいったまどかは、自分でもよくわからない土地で置き去りにされてしまう――
 「ななつのこ」シリーズ第3弾。「魔法飛行」がそれほどでもなかったので(すみません)あまり期待していなかったし、実は「スペース」もイマイチだったのだが、「バック・スペース」はよかったので思わずオススメ。「スペース」と「バック・スペース」は裏表の関係になっているので、本当はここで「バック・スペース」を紹介するのは間違いではないかという気もひしひしとするのだが……ま、いっか。
 今回はこれまでのように日常のささやかな謎、謎解きといったミステリ色よりは恋愛小説としての色あいが強くなっている。思いがけない瀬尾さんの過去(?)も明らかになる。作者は独立して読めるようなことをいっているが、「魔法飛行」から10日もたたないうちの話であることだし、これはもう、「ななつのこ」と「魔法飛行」を読んでから読まないと! これまで駒子の視点から語られた駒子の友人たちや瀬尾さんの外見(!)が、まどかの視点からはどう見えていたのかということがわかるのも興味深いところ。これを読むときには、ぜひ前2作もあわせてお読みいただきたい。



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