「私が悪いんだけどね。ほら、誰に対しても八方美人みたいなトコあるでしょ。だから誰も私のことを嫌いじゃない代わりに、一番好きでもないの。二番目か、三番目なんだよね。わかってんだ、私が悪いってことはね」
                        
 「一枚の写真」(「ななつのこ」) 加納朋子 創元推理文庫

 短大に通う十九歳の入江駒子は、あるとき表紙につられて「ななつのこ」という本を衝動買いし、そのままの勢いで作者にファンレターを書く。「ななつのこ」は全部で七つの短編の入っている短編集で、主人公は要領が悪く泣き虫のはやて少年。そのはやてが出会ったさまざまな事件と、それを鮮やかに解答してくれるあやめさんという女性とを描いた推理小説めいた本である。駒子は、その「ななつのこ」の作品ひとつひとつを思い出させるような日常のちょっとした事件をファンレターに書いて送るのだが、思いがけないことに作者からの返信には駒子のぶつかった事件への解決編が添えられていたのだ……。
 お買い得な本だ、ということは絶対の自信を持っていえる。なにせ、駒子の事件とその解答のみならず、作中の本「ななつのこ」まで楽しめ、さらにはばらばらに見えたひとつひとつの話が実は最後になって一本の糸でつながっていたことまでわかってくる。扉絵にまで「つながり」という謎があるときいたら、ほら、お得でしょう? 読んでみたくなったでしょう?
 推理小説とはいっても、殺人があるわけでもなく、大きな事故があるわけでもない。ここに書かれているのは、ほんとうにごく些細な、どこにでもあるような話だ。
「いったい、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか? いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なことすべてに納得してしまうようになってしまったのでしょうか?
 いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです」
 幼いころは……目に映るもののすべてがめずらしく、なにもかもがきらきらしていたように思う。なにもかもが謎だらけで、そんな謎を苦もなく解いてしまう大人たちの、なんと大きく、たくましく、賢く見えたことか。けれどいま気がついてみると、それは謎を解いているのではなく、謎に気がつかないだけのことだと、感性が鈍ってしまっただけなのだということを哀しくも悔しく、思い知らされるときがある。だからこそ、駒子はほんとうにどじで鈍くていわゆるちょっとずれた女の子だけど、その視点は子どもの鋭さ、すがすがしさを失っていない。そのことが、うらやましくなる。
 この「ななつのこ」に収められた七つの短編、七つの駒子の日常のそれぞれに、好みがあることと思う。わたしは冒頭に掲げた駒子の言葉から、「一枚の写真」が好きだけれど、さて、あなたはどの作品がいちばん好きですか?
 読み終わったら、ぜひ教えてください。そして、実は未読者とはぜったいに語ることのできない、「猫の和尚さんの謎」その他についてもぜひぜひ語ってみましょう。




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