「お願いしたいことがあります、レイチェル。こんなことをいうのは早すぎるかもしれませんが」
「はい?」
「教会の会計係をつづける気はありますか」
           
    「死神の戯れ」 ピーター・ラヴゼイ(山本やよい訳) ハヤカワ書房

 多くの信徒から熱狂的な支持をうける若き牧師オーティス・ジョイ。ユーモアを解し、魅力的な説教と熱心な奉仕活動で人々を魅了するその裏で、彼は横領とその隠蔽のための殺人を重ねていた。不名誉な濡れ衣を着せられて殺された主教をはじめ、小さな村に関わる人々が次々に謎の死を遂げる。しかし、そのことに気づいたのは頑固な変わり者の青年と、大言壮語することだけが楽しみな酔いどれのふたりだけだった。オーティスの罪を暴く者は出るのか。それとも、オーティスは最後まで逃げ切ってしまうのか?
 魅力的なオーティスとは逆に、オーティスの犯罪を暴こうとする側の者たちは融通が聞かない変わり者やほら吹きでしかない。真実を追い求めようとする姿すら、偏執的で気持ち悪いと受けとめられてしまう。人は見た目が9割、とかいう言葉が大いに納得できる展開である。
 それにしても思わず笑ってしまいました、引用のシーン。
 牧師であることを「天職」であると信じるオーティスにとって何より恐ろしいのは牧師の身分を剥奪されること。彼の連続殺人も、結局はその「天職」をまっとうしたいという気持ちゆえに引き起こされている。しかし一方で贅沢な暮らしというものも捨てがたいオーティスにとって、自分のいうなりになる相手を会計係に任命するのは必須事項。そのため、彼に熱をあげる人妻のレイチェルが他のことばを望んでいるときにも、とにかく彼にとって重要な会計の話しかしない。女としてここまでコケにされたなら、いくらなんでもレイチェルが彼に疑惑を抱いてもいいんじゃないのかと思うのだが、そうはならないのがもどかしいところ。
 実は最近、ツッコミどころが多い本は楽しい、というような話題をしていたばかりなのだが(「大いなる旅立ち」とか「フィーヴァー・ドリーム」とか)、この本もツッコミどころ満載。裏表紙の「神をも震えあがらせる不埒なサスペンス」ってのもいかすギャグコピーだと思う。オススメです。



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