「ミグったら、かわいそうに! どんな気持ちか、よくわかるわ!」お母さんが言った。
「わかんないよ! お母さんは人のこと悪く思わないで、いろいろしてあげられるもん! 私はクリスよりももっと悪い子なんだから!」
         
「マライアおばさん」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(田中薫子訳) 徳間書店

 ハッピーエンドの物語が好きで、空想家、将来には作家になることを夢見ているマーガレット、通称ミグが鍵つき日記帳に書いた文章――それが、この物語だ。
 知らない女の人とかけおちしていたお父さんが、荷物を取りに戻ってきた。ミグはとってもうれしかったのに、お母さんが「離婚よ!」なんていったものだから、お父さんはまたも家を出て、車でクランブリー・オン・シーという海辺の町に住むマライアおばさんのところに行ってしまった。ところが、お父さんはおばさんの家に行く途中、車ががけから海に落ちて行方不明に。そしてマライアおばさんがショックを受け、何度も電話をかけてくるものだから……お母さんと私、ミグと、お兄ちゃんのクリスは、ついついおばさんにやさしくしすぎてしまった。気づいたときには、せっかくのイースターの休みをおばさんと過ごすことに! その町はゾンビみたいに生気の抜けた男の人たちと、クローンみたいに同じ顔をした子どもたち、そしてマライアおばさんとその仲間たちが居座る不思議なところ。しかもクリスの部屋には幽霊が出る。
 テディベアみたいに可愛らしく見えるときもあれば、厭味ないいかたでお母さんやミグたちをこきつかうこともあるマライアおばさん。お母さんは、何でもマライアおばさんのいうとおりに働いているし、クリスは面と向かって反抗している。でも、お母さんみたいに優しくなく、クリスみたいな勇気もないミグは、日記におばさんの悪口を書きつづるだけだ。わたしって、なんて悪い子なんだろうと、ときには悲しくなりながら。
 そんなある日、ふとしたことからこの町の秘密に近づいたミグとクリスだが、おばさんに反抗したクリスがとんでもない目に合ってしまう。魔法をかけられたのか、お母さんまでおかしくなってしまった。ミグはひとりでマライアおばさんに立ち向かうことができるのか?
 マライアおばさん、実在した人物をモデルにしているそうである。その人が亡くなるまで、発表できなかったとのこと。だが、作者があとがきで書いているように、「ああ、いるよいるよ、こういうやつ!」と頷きたくなる不愉快さ。被害者ぶって自分を正当化し、決して反省することなく、自分のいいたいことだけいって知らん顔。……いるいる! ――そういうわけで、なんとも不愉快な人物に翻弄されつつも立ち向かうミグたちの姿を応援しているうちに、あっという間に読めてしまう。小心なミグ、悪戯っ子のクリス、おおらかなお母さんのチームワークも抜群。
 実は「魔法使いハウルと火の悪魔」に感激した昨年末以降、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本は何冊読んだか知れない。そのたびに、ハウルを越えるか、せめて同程度のおもしろさの本はないものかと思っていた。ようやくこの本にめぐりあえて、なんだかほっとしている。オススメ。
(それにしてもやはり、最近の児童書の変化を感じます。お父さんが金髪美人とかけおちするとか、お母さんの新しい恋人とか……ミグがお腹にいるときに転んでしまったお母さんにお父さんがいった一言、とか。ミグじゃないけど、そんなの教えてもらわなくてもいいのに! と思ってしまう。お父さんとお母さんも、ほんとのところは男と女で、完璧な人間じゃないんだよってことを表しているのかもしれないのだが。円満な家庭なんて、いまやファンタジーなんですかねえ)



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