俺たちは正義の味方じゃない。図書隊員は正義の味方じゃない。――じゃあ、あの人は。
 顔も覚えていない名前も知らない、五年前にたった一度関わっただけの図書隊員。汚名を着てまで君が守った、そう言って都に本を取り戻してくれた。
 あの人が正義の味方じゃなかったとでもいうの。
                 
「図書館戦争」 有川浩 メディアワークス

 昭和の最終年、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が成立、施行された。それがもたらしたのは検閲の合法化であり、流通前から流通後に至るまで、あらゆる検閲と押収が法の名のもとに行われた。一方、メディア良化法に真っ向から立ち向かったのが図書館である。「図書館の自由に関する宣言」を図書館法に織り込み、検閲を退けてあらゆるメディアを自由に収拾し、提供することを目的とした図書館は、しかし――メディア良化委員会にとっては「敵」であった。検閲における示威行動と、それに反発する図書館の対立は熾烈を極め、ついに「日野の悪夢」と称される凄惨な図書館襲撃事件を経て、互いに武装化。ついに図書館員は、内勤の図書館員のほかに防衛員と呼ばれる戦闘員からなる図書隊として、良化委員会に立ち向かう武装勢力となったのである。
 主人公の笠原郁は、そんな図書隊の新人隊員として、類稀なる運動能力と、かつて自分を助けてくれた図書隊員……彼女にとっての「王子様」への憧れを胸に、女子としては初めて、図書特殊部隊に配属されることとなる。しかし、座学が苦手な郁にとって、戦闘訓練はともかく、分類番号を暗記しなければならなかったりする図書館での勤務は拷問に近い。しかも、同僚になったスーパーエリートの手塚ははなっから都のことを見下し、皮肉しか言わない。訓練生時代からの上司堂上にいたっては、どうしてこうなってしまったのかわからないほどの犬猿の仲だ。しかし、さまざまな訓練や実際の図書館運営に関わるといった出来事を経て、郁は少しずつ成長していく。
 直情的で思い込みが激しい主人公の言動に、思わず吹き出してしまったり、ほろりとさせられたり、そういう意味でかなりおもしろい作品だといってよい。同期の柴崎との女同士のやりとりも、女だからこそのつっこみやら慰めともつかない揶揄やらで、かなり楽しめること請け合い(分類法を覚えさせるために柴崎が編み出した罰ゲームのえげつなさときたら……)。館長代理が指定図書をわざと紛失させたり、図書館内が原則派と行政派の論争で揺れたりと、なかなか微妙な問題もはらんでいて、そのあたりも見所かもしれない。
 個人的には、自由宣言からよくもまあこれだけのSFを生み出してくれた、と驚きとともに作者に拍手。昭和から平成にならず、正化という元号になっていることからもわかるように、架空の物語なのだから、あまり目くじら立てずに、ハインラインの軍隊内での青年成長モノSFみたいな感じで楽しみたい。
 でもって、どうなのでしょう。このあと、郁と堂上のふたりは犬猿の仲からロマンスを発展させていくんでしょうか……そんなことも、ちょっと楽しみ。





「図書館内乱」
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