男も女も、似たり寄ったりの幼子の格好で、ただ遊んでいれば良かった頃は、もう過ぎてしまった。そのことだけが、身に染みていた。
            
 「こころげそう」 畠中恵  光文社文庫

 下っ引きの宇多の耳に、女の幽霊が出るという話が飛び込んできた。折しもその少し前、幼なじみの千之助、於ふじの兄妹が神田川で溺れ、亡くなったところだ。もしやその幽霊は於ふじではないのか……――お店のお嬢さんである於ふじに、みずからの想いを伝えることなくいた宇多は、話を聞くために於ふじの父、由紀兵衛を訪ねる。するとそこには本当に、幽霊になった於ふじがいた……!
 人と人との想いが絡まり合った事件が六つ。事件とは少し離れたところに、幼なじみたちの恋の行方がある。幼いころには気にしなくてもよかった、家のことや、将来のこと。互いが好きあっている、ただそれだけでは一緒になんてなれないのだ。男と女のことに疎い、といわれる宇多だが、いくつかの事件に巻き込まれているうちに、少しずつ幼なじみたちのことが見えてくる。
 解説にいわく、
「変な例だが、舞台を現代に移して、宇多を若手刑事に、お染を工務店の娘に、おまつの職業を水商売に置き換えて月9ドラマにしても、そのまま成立する」
 というわけで、そんな風にみていくと、登場人物たちは若手刑事の宇多を中心に、フリーターだったり、やり手の若手ビジネスマンだったりして、ちょっとミステリ味のついたトレンディドラマそのまま。時代小説は苦手だという人でもすらすら読めることだろう。『しゃばけ』とはまた違った雰囲気が味わえる。




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