いつもいて、側にいて、息苦しく感じ、守られてきた。
 だが、妖の感覚はやはり人とは微妙にずれていて、今日のように困ることがある。
                     
「しゃばけ」 畠中恵 新潮社

 日本橋の廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋、その大店のひとり息子として生まれた一太郎は、幼いときから身体が弱く、寝たり起きたり。そんな孫を心配して、祖父がつけてくれたのが、犬神、白沢というふたり(?)の妖だった。店の小僧として居ついた妖は、いまやすっかり佐助と仁吉という手代として、店にも家にもなじんでいる。だが、一太郎がとにかく一で、二からがないという妖に守られる日々は息苦しくもある。特に、いまの一太郎には、ふたりには知られたくない秘密があった。
  シリーズ第一作目。身体の弱い若だんなと、そんな彼を見守る妖たちの、ちょっと不思議な物語。内緒で出かけた先で人殺しと遭遇し、外に出ることさえできなくなってしまった一太郎。そして、たしかにそのころ江戸の町では、薬種問屋が狙われるという事件が次々に起きていた。よりいっそう一太郎への守りを固める妖たちだが、犯人はいったい……?
 鳴家やら屏風のぞきやら、甘いもの好きの妖たちが個性的で楽しい。とはいえ、ほのぼのしているだけではなく、江戸の町で起こるさまざまな事件を通じて、一太郎は身体の弱い自分が生きている意味を見つめなおし、幼なじみの栄吉とのやりとりで、人の世のままならぬことを思う。一巻めはお披露目といった風だが、巻を重ねるごとに、若だんながちょっぴり成長していくようなのも楽しめる。若だんなの暇つぶしにと事件を持ちこむ親分など脇を固めるキャラクターもよくできていて、安心して読める作品。



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