――鼻はダメだ! それなら、よっぽど、臀部やら胸部の膨らみを触りたいと思うほうが、健全で微笑ましい。鼻だけなんて、そんなの、そんなの……まるっきり変態じゃないか。
           
 「鴨川ホルモー」万城目学  産業編集センター

 京都大学一回生の「俺」、安倍は、京都三大祭りの一つ、葵祭のエキストラとして牛車を引いた帰り、同じ京大生の高村と出会い、同時に「京大生青竜会」なるサークルから勧誘を受けた。本気で勧誘する気があるのかどうか、何をするのかさっぱりわからない内容のセンス皆無の勧誘ビラ。とはいえ、一人暮らしで食うものにも困っていた安倍は食を確保するため、三条木屋町居酒屋「べろべろばあ」の二階座敷で開催された新歓コンパに出かけ……そこで運命の出会いをする。早良京子の鼻である。
 早良京子の鼻に、そして鼻の持ち主である早良京子に一目惚れした安倍は、何をするのかさっぱりわからぬまま、とにかくひたすら青竜会のイベントに参加し続けた。ハイキングやバーベキュー。よくわからないなりに楽しいアウトドアイベント。だがそれは、京都を舞台にして繰り広げられる「ホルモー」なる競技に誘い込む、ひそかな、そして姑息な罠だったのだ……
 物語は、「ホルモー」という競技にわけもわからぬままに引き込まれた青竜会一回生たちが、地道な訓練を経て実践に挑む、その姿が描かれる。ネタばれになるのでホルモーのことを詳しく書けないのが厄介であるが、朱雀、白虎、玄武、といった他大サークルとの総当たり戦だったはずのホルモーが、安倍の切ない片思いから様相を変えていくあたりも見どころ。
 頭脳内妄想は激しいが、それが行動に出ない安倍、日本に対してどこか誤解がある帰国子女の高村、ホルモーの力量はあるが人望薄い芦屋、ダサイ眼鏡と髪型の楠木、そして美しい鼻の持ち主早良京子……などなど、個性的な面々が勢ぞろいの面白さ。京都の古風な町の風情もミスマッチではなく、よく合っている。一回生を見守る三回生のスガ氏ののほほんとした風情も魅力的である。
 それにしても、「夜は短し歩けよ乙女」といい、「鴨川ホルモー」といい……京都って異空間? それとも京大生が不思議人? それにしても、ホルモー……楽しそう(笑)。



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