「だろ? 世間と俺たちの間には、大きな隔たりがある。その溝を埋めることは容易ではないし、俺はそもそも埋める必要を感じない」
               
 「ホルモー六景」 万城目学  角川書店

 京都大学青竜会、立命館大学白虎隊、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックス。互いに千匹のオニを引き連れ、京都市内で戦う猛者ども。世間の常識と隔絶したところに生きる彼らだが、そんな彼らにも人並に訪れるのだ――「恋」というやつが。
 というわけで、「鴨川ホルモー」の続編(?)にあたる今回は、恋を軸にした連作短編集。といってもホルモーにかかわる面々がまっとうな恋物語を演じるはずもなく、やや異様な片思いの顛末だったり、失恋であったり、時空を超えた恋であったりする。ちょっぴり切なくて微笑ましくてほろりとさせられる、そんな物語。大学を(そしてホルモーを)卒業した後に見える互いの姿や、ホルモーとは別の場所でばったり出会う相手の姿の意外性。恋の本質を突くセッティングがあれこれ用意されていて楽しめる。
 それにしても「もっちゃん」にはやられました。ネタばれになるので多くは語れないが、あちこちに散りばめられているヒントを見過ごしてしまったのは、おそらくどの物語においても主人公たちが交わすややピントのずれた会話のせい。いつものようにずれてるだけだろうと思っていたら、これがとんでもないのである。
 恋物語としてはぴかいちの「長持の恋」ほか、楽しめる話が満載。それにしてもホルモー、京都だけではなかったのか! 東京でもやりたかったなあ……。
もちろん「鴨川ホルモー」とあわせてどうぞ。



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