「だって、他の階ならいざ知らず、よりによって七階を撤去するだなんて、そんな不見識も甚だしいやり方に、賛同できるわけないじゃないですか?」
             
   「七階闘争」(「廃墟建築士」所収)三崎亜記 集英社

 発端は、六月に起こった殺人事件だった。
 その次は飛び降り自殺、その次は火事。さらに……なんら関連性のない事件。しかし、ただ一つだけ共通している点をあげるとすれば、それは、すべてビルの七階で起きたということだった。物騒だがよくある事件として気にもとめていなかった「私」だが、ある日、テレビの議会放映中、七階を放置していたことについて市長が責められているのを目にして違和感を覚える。しかも市長が七階撤去の方針を口にするに至っては、何を意味しているのかなどわかるはずもなかった。しかし、偶然にも七階の居住者であった彼は、かねてから密かに心を寄せていた並川さんもまた七階の住人であるということで声をかけたことをきっかけに、七階護持闘争に巻き込まれてゆく。
 三崎亜記風不条理世界。表題作である「廃墟建築士」(その名のとおり、廃墟を建築する……そもそもこの矛盾がすごい)より、七階闘争のほうが唐突で不条理で、しかも、「となり町戦争」を思わせる――つまり、主人公はよくわかっていないのに、なぜかそのことについてとてもよく知っている人がいる、という状況に巻き込まれてゆくのだ。
 夜の図書館で本たちが野生に帰って飛びまわる話など、図書館に勤める者にとっても興味深い物語が収められているが、なによりも、「七階闘争」。これを読まねば、損です。




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