「なにもかもが信じられなくなったとき、呑むのにふさわしいものがいいな」
 杉本は首を傾げた。
「では、オリジナルのレシピのギブソンなんかいかがでしょうか」
        
    「ギブソン」 藤岡真 東京創元社

 早朝、接待ゴルフのために部長を迎えに来た「おれ」、日下部。しかしいつまでたっても部長は現れず、その朝を境に部長の高城秀政は姿を消してしまった。彼が向かったのは右の道か、左の道か。それとも正面の道か……。尊敬する部長の失踪が信じられず、日下部は同じく高城を慕う後輩笹崎とともに、周囲を調べ始める。
 ところが、調査を始めた日下部は、部長の行方はいっこうにわからないまま、奇妙な事件に次々と遭遇する。町内を走り回る消防車のような赤い車、血痕のついたシャツを残して姿を消した独居老人。盗撮を繰り返すストーカー。高城部長の日記に書かれていた、生き別れになった娘の存在……――いっけんするとばらばらに見えたそれらは実はリンクしているのだが、それに意味はあるのか、単なる偶然か。
 サイキン多いのでしょうか、この手の、中心になる謎は実はあまり大したことないんだけど、細かい謎ときがいっぱいある、っていう作品(例えば「さよなら妖精」とかね)。この話も、日下部はなかなか真相にたどり着かないのだが、読み手はけっこう早いうちに、部長失踪の真相をつかめてしまう(と思う)。とはいえ、日下部がミスリードされていく様子も、ミスリードのために次々に出てくる謎とその回答というのも飽きさせない。個人的には、メインの謎解きよりも面白かったくらいである。ということで、オススメ。楽しめる作品である。



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