「ネズミでさえ、名がある」
「わたしにはないよ」と、少女はつぶやいた。
「ある」声が頭の中にひびいた。
              
  「ドラゴン・キーパー」キャロル・ウィルキンソン(もきかずこ訳)金の星社

 漢の国の西、荒涼とした不毛の地に建てられた離宮、黄陵宮で、少女は龍守り(ドラゴン・キーパー)ランの奴隷として働いていた。幼いときに両親からランに売り飛ばされ、日々、殴られ、蹴られ、ひもじい思いをし、龍とランの世話を一手に引き受けている少女には夢も希望もなにもなかった。唯一のこころの慰めは、少女になついているネズミのファだけ。先代の皇帝が龍に噛まれたのを目撃した後、龍を嫌悪するようになった皇帝にとって、龍も龍守りも、まったく不要なものであったために、黄陵宮にいる龍の待遇が良くなる見込みもまったくない。しかし、そんなある日、二匹しかいない龍の片方が死んでしまったとき、少女は頭の中に響く絶望の声を聞く。それは残された龍ダンザの嘆きの声であり、龍の声を聞ける少女こそ、実は真の龍守りであったのだ。
 龍の命を狙う皇帝から逃れるため、少女は老龍ダンザとともに黄陵宮を逃げて旅をする。だが、外の世界にもまた、龍の肉や血を求める龍狩り(ドラゴン・ハンター)や、死霊使い(ネクロマンサー)たちがいた。ダンザが決して離そうとしない紫色の玉を守りつつ旅をする少女は、少しずつダンザにものごとを教わり、成長していく。
 全3巻。あまり書くとネタばれになるので書けないが、少女(ピン)が少しずつ成長していく姿がよい。ダンザ、カイといった龍も魅力的で、これを読んだあと、「テメレア戦記」を再読してしまった。西洋人が書いた中国の龍の物語だが、違和感はない。
 宮廷で安全に暮らすことは自由を意味せず、自由な野で生きることは危険を意味する。彼らはどちらを選ぶのか、そして本当に自由で幸せになれる日は来るのか。3巻での彼らの選択は、胸に響くものがある。オススメ。



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