「ハナよ、ゆきよ、おまえがたはいまはへただども、いまやる気になったということがたいせつなんだ。たいせつなんだぞ」
            
「ゆき」 斎藤隆介 講談社

 天にすむ雪ん子のゆきのことを、雪のじんじいはいう。
「雪ん子はきれいになりすぎた」と。
 自分というものをしっかり持っていれば、「きれいすぎる」なんてことにはならないのだと。そしてゆきは、まっ白な雪を汚してしまうほどにきたなくなりすぎた下界をそうじするために、美しい天上から地上へと下りてくる。下界のよごれた力に負けてしまったら、形もないくらい風になって北のはての中空をさまようことになると知りながら……
 下界にやってきた天のむすめ、ゆきが見たものはなんだったろう。飢饉にあえぐ百姓たち、夜盗に親を殺されたみなしごたち。自分の利益ばかりを考える地主や侍たち……ゆきは自分のできる限りの力でそれらと戦いながら、いつしか、本当の敵は百姓たちの心の中にこそあるのだということを知ってゆく。百姓たちを率いて夜盗や大百姓と闘い、ゆきにさまざまなことを教えてくれた爺さまでさえ……
 立ち上がる農民の力強さと、ゆきのまっすぐな心が美しい物語を織り成している。戦いを肯定する物語のあり方には賛否両論あるだろう。けれど、たんなる戦いをこえたものが、確かにある。そのことをぜひ読みとってもらいたい。
もちろん、ストーリーばかりでなく、登場人物のひとりひとりが丁寧に描き出され、とても身近に感じられるという点でも読みやすく、魅力的だ。特に、地上のことをなにひとつ知らないゆきと最初に出会い、ゆきを姉のように慕うはじけ豆のように元気なハナには、だれしも笑顔になってしまうのではないだろうか。




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