「大物連中に糞食らえと言わないあなたなんて、手元に置いておく意味がないでしょうが」
                
  「ユダヤ警官同盟」マイケル・シェイボン(黒原敏行訳) 新潮文庫

 酒浸りの殺人課刑事ランツマンが暮らす安ホテルで殺人事件が発生した。殺されたのは有名なチェス・プレイヤーの名を偽名としていた若い青年。死体の傍らにあったチェス盤に興味をひかれ、ランツマンは捜査を開始するが、ときは2007年、アラスカ・シトカ特別区がアメリカに返還されようとする直前のことだった。返還までに継続している重要事件をなくすためには、すべての捜査を迷宮入り事件にするしかない。そして、チェス盤の横で殺された若者の事件も、新しくやってきた上司(しかも元妻)によって、否応なく迷宮入りとされてしまう。仕方なく、相棒であり親友でもあるベルコとともに密かに捜査を続けるランツマンだが、そこに浮かび上がってきたのは、奇跡を起こす救世主の存在だった……――
 ざわざわと落ち着かない時代の中で捜査を続けるランツマン。と書けば格好いいような気もするが、暴走気味でやみくもに突っ走る部分もあり、みっともない羽目に陥ることも複数回。とはいえ、会話にも地の文にもそこはかとないユーモアがあって、なんというか、読んでいて非常に楽しい。伯父やら友人やら、亡き父親やら妹やら、容疑者やら情報提供者やら、それぞれの登場人物たちの複雑な背景や性格設定も興味深く、それらが事件にも複雑に絡まってきて、あれこれ無駄なようでいて、なにひとつとして無駄がない。一度目は夢中で読み、二度目はさらに夢中で読んだ。……ので、まともなオススメ文になっていなくてすみません。でも、むっちゃおもしろかった! のです!!!



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