あのころ、おれとクラムジーは、肉体関係以外のすべての関係でもって、かたくかたく結ばれていた。それがどれほどうっとうしくて、おれの心をかき乱したか、おそらく誰にも想像がつないだろうと思う。
         
「銀河郵便は"愛"を運ぶ」 大原まり子 徳間書店

 全身にたくわえた筋肉とはうらはらに、マゾっ気があり、内省的で気が短く、金銭感覚にすぐれている(ケチな)イルと、ヒューマノイドの完璧な理想像を具現化したセクサロイド(しかも実は性転換もする)のクラムジー。このふたりの郵便屋さんが、あちこちの辺境の惑星に手紙を届ける――という話とは、ちょっと違うかも。二人を乗せて運ぶ郵便艇「小さくて可愛いマヤさん」は月に一度女の子の病気になるし、イルをめぐってクラムと壮絶な舌戦を繰り広げる。しかも落ち込みやすくうじうじ考え込むタイプのイルは、明るく楽天的で人なつこく、しかも戦闘機としても優れた力を持つクラムジーに振り回され、あまつさえクラムに恋愛感情を(しかも女性型ではなく男性型に)抱いてしまったことでさらに落ち込んでしまっている。なにせクラムの「愛」ときたら……下品でとても思い出したくもないようなものなのだ。
 連作短篇集。作者がキャラを意識して書いたというだけあって、とにかく登場人物たちが鮮烈である。現実的に考えれば、イルってすごくうっとうしい性格の男なんじゃないかと思うのだが、そこがクラムジーと組み合わされることによって、なんともいえずいい味に仕上がっている。
 郵便物を届けるだけではなく、時には付帯条項クリアのために、惑星規模のゲームに参加することさえある(イルクラシリーズ第二弾「イル&クラムジー物語」)。とにかくあまり頭を使わずに読める本。気軽に手にしてもらいたい。

なお、昔の徳間書店版(わたしが持ってるほう)は天野喜孝さんの表紙と挿画。でもきっといまはデュアル文庫版のほうが手に入れやすいんでしょうねえ……



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