「まあいいや……でもそんなことして、なんの意味があんの?」
「よくぞ訊いてくれた。じつのところ、意味はないね、まったく」
     
    「宵山金魚」(「宵山万華鏡」所収) 森見登美彦  集英社

 「俺」、藤田は、高校時代の友人、乙川に何度となく騙されていた。大学時代も宵山に関してすでに二度、これが宵山だといって上賀茂神社に連れて行かれたり、そのまま鞍馬に連れていかれてしまったりと騙されていて、実は藤田はいまだ宵山を味わったことがない。社会人になり、わざわざ京都まで宵山見物にやってきた今年こそは騙されまい、とかまえていたが、そうこうしているうちに乙川とはぐれ、なんと祇園祭司令部特別警務隊なるものにしょっぴかれる羽目になってしまった。わけのわからぬ連中に、わけのわからぬままに引きずりまわされ、宵山様の前にひれ伏すこととなった藤田だが……――
 これは現実なのか妄想なのか。
 この本の中に収められた6つの話は、どれも少しずつリンクしている。しかし、妄想でもファンタジーでもなく説明がつくかと思っていたら、ふいにすうっと世界が歪んでいくので油断がならない。さすが森見。いきおいだけで押されてしまいそうになるあたりも、すごい。
意味のないことを真剣にやる、それが青春だ。とまではいわないが、とにかく、乙川というキャラクターがとてもよい。そしてなんといっても「超金魚」が。
あやかしの世界、京都。宵山のぼんやりした灯りや、華やかさ、ざわめきの中を、不思議な連中が駆けまわる。
宵山を味わいたくなった。



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