つまり、日本の成長が止まった日に、十二歳で成長が止まることになるぼくがこの世に生まれてきたってことさ。
               
  「呼人」 野沢尚  講談社

 物語は1985年、12歳の少年たちの夏から始まる。秀才の潤、身体は大きいけど気の小さい厚介、そしてぼく、呼人。自分たちで作った秘密基地で漫画を読み、ボードゲームをし、まだ遠い将来を漠然と思う。3人ともクラスメートの小春に密かに想いを寄せているが、その小春がある日、水泳大会で思いがけない行動に出た後、行方不明になる。小春を探す旅に出る三人。忘れられない、夏。
 過ぎ去ってゆく12歳の夏であるはずのその日々は、しかし呼人にとっては自分の周囲だけが流れ行く日々でもあった。永遠の子どもとして生きる呼人は、身体も心も12歳のまま歳月だけを重ねてゆく。
 子どもが大人になりたいと願う想いと、大人が子どもに戻りたいと願う想いとでは、どちらのほうが大きいだろうか。いつまでも「変わらない」呼人に、潤も厚介も小春も、失われたと思っていた日々が手でさわれるほど近くにあること、輝きつづけていることを知る。それは――うらやましいことだろうか。それとも?
 後半は、ふとしたことから自分の出生の秘密に近づいた呼人が母親探しをしてゆく話になっていく。自分がなぜ永遠に子どもでいなければならないのか。母親は、なにを考え、なにを思っていたのか……。
 12歳の少年の視点から描かれた「成長の止まった日本」。物語の時代は2010年まで描かれるのだが、ラストに与えられたのはある意味での救いだ。こんなに重みのある物語を平易な文体で書く人を喪ってしまったことを惜しまずにはいられない。



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