やりたいことをするのには、ひとりきりのほうがいい。
               
 「ヤマネコのきょうだい」 岡野薫子 講談社

 はじめに―――の中には、こう書いてある。
「野性的な美しさをもつヤマネコは、たいへんりこうな動物です。なにか、事がおこったときでも、いつも自分ひとりで考え、自分の力で切り抜けます。(略)ひきしまった顔をして、夜の森の中を、すばやく影のように動きまわるヤマネコ……。それは、自信に満ちた誇らしい姿です」
 日本の西のはずれにある小さな島で生まれた四匹のヤマネコのきょうだい。彼らの生は野性的な魅力にあふれている。母ヤマネコのきびしい教え。狩の方法、じっとして動かないこと、たくさん食べるくせをつけずに我慢すること……少しずつきょうだいたちがおとなに近づいていたころ、一方では島に住む少年太一がなんとかしてヤマネコを飼いたいと願っていた。太一はいう。
「どんな猛獣だって、ならそうと思えばならせるんだもの。ヤマネコだって……、おれ……できないことないと思う。飼うほうの気持ちが大事なんだ」
 太一の気持ちは純粋でまっすぐだ。けれど、きょうだいの中でもいちばん自由を愛し、「やりたいことをするのには、ひとりきりのほうがいい」と幼いころから家族とはなれることの多かったチビが太一につかまってしまったとき……そこには、太一が思っても見なかったほどの激しい拒絶だけがあった。
 美しい筆致とヤマネコへのやさしいまなざしと。すがすがしい感動を受けることができるだろう。とくに「シートン動物記」などいわゆる動物ものが好きな人には絶対のオススメ。



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