「あなたは奴隷としてなにを学んだの?」
「人はだれも他の人間の奴隷になることはできないということだ」
「それはうそだわ」
「だとしたら、おれはうそを学んだ」
               
「第七の封印」オースン・スコット・カード(田中一江訳) 早川文庫
 
 ヘプタルク家のオルク王に仕えるペイシェンスは、幼いときから父、ピース卿と準賢人であるエンジェルに教育され、13歳にして優秀な外交官であり暗殺者となっていた。父の教えに従い、オルク王に命を捧げるペイシェンスだが、彼女には大きな秘密があった。いにしえの予言によれば、ペイシェンスこそ神の母、第七の七の七世代目に復活する神の子を産む女性だったのだ。狂信者たちは彼女を待ち望み、オルク王を倒すことも厭わない意志を見せる。ペイシェンスが生きのびるには、毎日が駆け引きの連続だった。
 父、ピース卿の死によって危険を察知したペイシェンスは、王国を出て放浪の旅に身を投じる。しかしそれは同時に、予言を成就させるべく彼女を呼びつづけるワームとの際限のない精神的な闘いのはじまりでもあった。
 人類の敵であるゲブリングたちや、奴隷でありながら自由な意志を持つウィルなど、さまざまな人々との出会いによって、ペイシェンスは成長し、神の子とされる存在の真の姿を知る。それはこの惑星イマキュレータの根源に関わる、大きな秘密に触れることでもあった。果たして、ペイシェンスたちの旅の終わりに待ち受けるものは何か。
 いろんな要素がふんだんに惜しげもなく使われていて、カードファンなら大喜びで読める一品。天才的な子ども、第七の七番目という予言。地球型遺伝子とイマキュレータ型遺伝子との交配などという話は、「死者の代弁者」につながるものも思わせて、なんとも心憎い感じである。
 登場人物一人一人、ペイシェンス(堅忍)、ピース(平安)、ウィル(意志)……と、それぞれの属性に合わせた名前が付けられていることにも注目してもらいたい。そうすると、エンジェル(天使)の理由が、最後の最後で、なるほどね、と頷けることは間違いない。オススメ。



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