「この作戦に参加してとくすることは一つもないんだ。最高にうまくいっても、二つの件を解決し、しかも、そのことをだれにも知られない。そのままもとの仕事にもどるだけだ。最悪の場合は、いうまでもないと思う」
                     
「目撃」ポール・リンゼイ(笹野洋子訳) 講談社文庫

 現職のFBI捜査官が書いたFBI捜査官を主人公とした犯罪小説。ということで、ここのところ女性ばかりが活躍する小説の多い中、ホンモノの男たちによる痛快な物語。
 主人公マイク・デヴリンはその優秀さゆえに上から煙たがられるような、そんな捜査官。妻を愛し、信念に燃え、わずかな証拠さえ見逃さずに犯罪解決に力を尽くす。折りしも捜査当局内部から警察協力者のリストが盗みだされ、さらには同僚の娘までも誘拐される。なにもしようとはしない上層部に反抗し、ひそかに二つの事件の解決のために動き出したときのデヴリンの言葉が、冒頭に掲げたもの。彼に力を貸す、これまた一筋縄ではいかない連中に向けた言葉だ。
 チームを組んでことにあたるという点ではクリーシィ・シリーズに似ているが、こちらはとにかくとんでもない連中が多い。FBIにしておくのが惜しいほどの悪戯の才能をもつビル・シャナハン(彼のとんでもない悪戯は読んでのお楽しみ)をはじめ、ひとりひとりがいきいきと、まるでずっと以前からの知りあいのように感じられるほどに描かれているのだ。膨大な駐車券の中から、もしかしたらついているかもしれない指紋を探す地道な作業。一方で、おもちゃの手榴弾で悪党どもの巣に乗り込んでいく大胆さ。この本の中にあるエピソードのユニークさは格別だ。
 この本が気に入ったら、ぜひシリーズ続編である「宿敵」も読んでもらいたい。シャナハンが火炎放射器を手にゴーストバスターズを歌いながら犯人逮捕に向かうシーンには、思わず手をうって喝采してしまうに違いないから。



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