「加賀さん、あなたも嘘をついたわね」
                
「嘘をもうひとつだけ」東野圭吾 講談社文庫

 ダンサーを引退し、バレエ団の事務員をしていた女性がバルコニーから転落して死亡した。足首にはレッグウォーマーをつけ、トウシューズを履いていたのは、自殺を選んだバレリーナとして当然の心理だったのか、それとも……? 同じマンションに住む元プリマの美千代のもとを訪ねた刑事、加賀は、自殺説を否定するようなことを言い出すが……
 短編集。東野作品でご存知のキャラクター、加賀恭一郎が活躍する短編集である。ほんのわずかな手がかりから推理をすすめ、さりげない問いで犯人を追いつめてゆく。全体に似たようなオチの作品が多いので(おおっとネタばれか)、犯人探しはそう困難ではないのだが、犯行に至るまでの過程、犯行後の心理の揺れなども浮かび上がり、しっとりとした仕上がりになっている。
 この短編集の中でやや異色なのは、「狂った計算」であろうか。夫の死後、毎日のように菊の花を買っていく女性、奈央子。ありきたりの交通事故ではあったが、彼女の周囲ではもう一人、男が姿を消していた。失踪した男の妻に依頼された加賀が奈央子に接近するが、彼女は静かに、しかし断固として失踪した男との関係を認めない。まるで計算されたかのように、数年ぶりの友人の前で事故にあった夫。顔がつぶれ、判別しにくい状況にあった死体は、あれはいったいどちらの男だったのか、そしていったいなぜ……?
 全体にも薄い本なので、読みやすいと思う。ぜひ。




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