毎晩、あたしは夢を見る。アマとあたしがうちの外にすわって、山の上からお祭りの明かりを見てる。アマは、あたしの長い黒髪を三つ編みにしてくれている。
               
   「私は売られてきた」パトリシア・マコーミック(代田亜香子訳) 作品社

 ネパールで暮らす十三歳の「わたし」ラクシュミーは、貧しいながらもしあわせな生活を送っていた。しかし、継父はわずかなお金さえも賭博ですってしまうような男。だから、自分もいつか、親友のギーターのように、街でお金持ちの女中をするのかもしれないと思っている。しかし、長い乾季と長い雨季のせいで収穫がまったくなかった年、ラクシュミーは自分ではまったく知らぬまま、ごくわずかな金で売春宿に売られてしまう。食事を拒み、死を願ったところで、力の強い者たちに囲まれていれば逃げることも死ぬことさえもできない。いつも思い出していた山々や母の顔も、記憶が薄れてきてしまって思い出すことさえ大変になってしまう。いつかここを出るという希望を捨てないラクシュミーは、今まで自分が稼いだお金と借金とを計算してみるが、稼いでも稼いでも借金ばかりが増えていくのが事実。そんなある日、ラクシュミーはひとつの噂を耳にする。
 幼い少女の人身売買を描いた衝撃作。しかし物語は淡々と、ときには美しい叙情性さえたたえて進行する。それはラクシュミーの中に根付いたネパールの自然や大地のやさしさが失われていないからだ。
 全米図書賞最終候補作、グスタフ・ハイネマン平和賞授賞作。言葉にならない恐怖の中でも生きる、生き続ける少女。これは決して、ただのフィクションではない。



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