「ねえ、あたしと友だちにならない?」
 あたしは、なんてバカなことを言ったのだろう。
              
 「チューリップタッチ」アン・ファイン(灰島かり訳) 評論社

 パレス・ホテルの支配人の娘、おとなしいナタリーは、引っ越してきたばかりの日、チューリップという女の子と出会った。チューリップは貧しく汚い身なりをして、自分を特別に見せるようなウソや、相手を傷つけるためのウソをつくのが得意だ。汚いことばをつかい、裏表のある行動をとるために、学校でも誰からも相手にされることがない。けれど、ナタリーはなぜかそんなチューリップから離れられなくなってしまう。チューリップと一緒にいることで、他のクラスメートから自分自身も浮いてしまっていると自覚しながら、ナタリーはそれでもチューリップの魅力に逆らえない。チューリップは決して優しい友人ではなく、ナタリーのことを「バカ子」と呼び、奴隷のように従わせているだけなのに。
 ナタリーの両親は、チューリップの裏の顔を知らないわけではないが、彼女の生活環境を理由に遠ざけることにはためらいをおぼえている。そのため、ナタリーは両親に助けを求めるわけにはいかなかった。万引き、そして放火。悪意を増すチューリップの行動についていけなくなったナタリーは、ついに自分自身を救うために、命がけでチューリップから離れる決意をする。
 かわいそうな子、と大人がいうのは簡単だが、その「かわいそうな子」と行動をともにする子どもは、どのように感じているのか。ナタリーの両親も決して悪い人ではない。けれど、大人の視線から、大人の良心でチューリップを見守ることと、ナタリーを救うことを両立させようとするほどまでには、彼女たちを理解することはできない。
 あたしとチューリップ、両方を守ることはできないことが、どうしてわからないの?
 ナタリーの心の叫びが痛い。
 訳者あとがきによれば、この本は出版後、さまざまな議論を呼び、「この本ほど人々が熱く議論した本はない」という研究者がいるほどだという。
 物語のはじめでナタリーが書くように、この物語はすっかり終わったとはいいがたい。これからチューリップは、そしてナタリーはどうなっていくのか。さまざまなことを考えさせる深みをもった佳品である。



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