「死ぬよりも、生きていたほうがつらいこともある」
             
       「月の森に、カミよ眠れ」上橋菜穂子 偕成社文庫

 <外なる者><訪れた者>として、カミを封じるために呼ばれたナガタチ。彼を招いたムラの者たちは、朝廷に従って稲作を行うために、月の森に住むカミを封じようとしていた。神と人のあいだに生まれたナガタチには、この森のカミを封じる理由があったからだ。物語はオニの息子といわれて育ったナガタチの話、そして蛇を祭る巫女カミンマとなった少女キシメの話が語られることで、月の森の姿、そしてクニのハテであるこの村に迫りくる朝廷の姿を明らかにしてゆく。
 飢えと、貧しさと。いつまでも森の奥で暮らすことが不可能だと知ったとき、カミか、人かという選択を迫られる少女。しかもカミの息子タヤタは幼いころから少女とともに過ごし、彼女を妻にと望んでいるのだ。
 物語の中にはカミの妻と望まれた女性たちが出てくる。カミの妻となったことを恐れ、怯えて過ごしたナガタチの母。カミの真の姿を知ってもなおカミを愛し続けたホウヅキノヒメ。カミの息子タヤタに惹かれながらも、心の中にどこか冷たい怖れを抱かずにはいられないキシメ。特に主要な登場人物のひとりであるキシメは、古の森に忍び寄る時代の波に翻弄され、自らの想いさえ見失いかけてしまう悲しい存在だ。
 生き続けるために下した厳しい決断。登場人物ひとりひとりの背景が丹念に語られたのちに起こる事件だからこそ、胸にせまるものがある。古代日本のような、そうでないような場所を舞台にしたファンタジー。「守人シリーズ」は長くてちょっと手が出ない、というような上橋菜穂子が初めてという人にもオススメ。




オススメ本リストへ