「それに、彼が本当はどんな人間なのかわたしたちにはわかっていないのよ」
「彼らがなんと非難しようと、彼はわたしが愛した男なのよ」
                 
   「バーニング・ツリー」ジョゼフ・フィンダー(石田善彦訳) 新潮文庫

 ハーヴァード・ロウ・スクール教授のクレアは、万人の注目を集める裁判で被告人の無罪を勝ち取り、再婚によって娘を可愛がってくれる優しい夫も手に入れ、幸せな日々を送っていた。しかし、その幸せはある日、夫が大量殺人犯として逮捕されることによって崩れ去る。金融の専門家だと思っていた夫は、実はかつて、ペンタゴンに属する超極秘の秘密機関<バーニング・ツリー>の一員だったという。それまで遡ることの出来なかった彼の過去の多くは、軍隊の極秘資料の中にあった。そしていま、エルサルバドルの小さな村で、無抵抗の村人87人を殺した罪に問われているロナルド・キュービックこそが、クレアの夫トム・チャップマンだとされているのだ。
 軍事法廷という慣れない場所で、ひたすらに夫を信じ、闘い続けるクレア。しかし、トムを陥れようとする相手によって、盗聴や嘘の証言、クレア自身への脅迫など、際限のない邪魔が入る。父親がどこかへ消え、母親も仕事三昧になったことで傷つく幼い娘。板ばさみの状況の中、それでもクレアは夫を信じつづける。
 誰かのすべてを知る、というのは無理な話だが、それでも、彼はそんなことをする人じゃない、という信念はある。揺らぐ思いを押さえつけ、闘い続けるクレアの姿が凛々しくも痛々しい。
 それにしても、背表紙のあらすじに「そして全てを覆す茫然の結末……」って書いちゃうのはどうなんだろう……。先の展開が読めてしまったことだけが残念。それでも楽しめましたけど(笑)。



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