ぼくは楽観的な男だ――これ以上アクシデントが起きなければ、四十五分の余分な時間を使い切ることはないだろう。ぶっちゃけた話、成功は決まったも同然――ブライアンの友だちが何度も何度も飛び降り自殺を図って、それでも指二本以外は五体満足なら、深夜十二時までに全路線を回りきるなんて、難しくないはずだ。
                    
   「トンネル・ヴィジョン」キース・ロウ(雨海弘美訳) ソニーマガジンズ

 結婚式を明日に控えた朝の五時。「ぼく」アンディは地下鉄の始発を待ってモーデンの駅で震えていた。二日酔いの頭と使い捨てカメラを抱えて。
 ひょんなことから地下鉄おたく仲間のロルフ(地下鉄乗車券法規に関してはアンディのほうが詳しいが、ロルフは開通から1990年代前半までの乗車券コレクションを持っている……)と始発から終電までの間に地下鉄全路線を回りきることができるか、という賭けをしてしまったのだ。賭けたものはロルフの最高最大の乗車券コレクションと、アンディの新婚旅行のための航空券、結婚式の挙げられるパリにむかうためのユーロスターチケット、パスポート等々。愛しのレイチェルと結婚するためには、全駅を回りつつ、指定された場所にあるパスポートやチケットを回収しなければならない。かくして、アンディの無謀なまでの挑戦が始まった。
 みちるさんからの就職祝いオススメ本。
 全路線の駅名がいえるどころか、セントラル線の駅名の頭文字をつなげると「ewnewshmqlmbothcsblbmsllwbldte」になることを知っていると自慢したり、地下鉄路線図トランクスをはいていたりするほどのオタクっぷりのせいで女の子に逃げられてきたアンディが、ようやく手に入れた女性、レイチェル。地下鉄おたくぶりへの嫌悪を隠さず、ロルフとの相性は最悪で、それでも、アンディのことを愛してくれている、そんな女性を放って、なにゆえ結婚式の前日にこんなところに? しかし、悩む間もなく電車は走る。
 遅延、運休、人身事故。くじけそうになるたびに前にすすむアンディの姿がよい。とにかくばかばかしい話のだが、最後にはさわやかな感動が残る。
 ……それにしても、鉄道おたくって国境を問わずどこにでもいるんですね(笑)。




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