デイヴィッドはアルテア4にいる。そしてそこではトミーノッカーズ、トミーノッカーズ、ドアをドンドン叩いてる。
      
     「トミーノッカーズ」 スティーヴン・キング(吉野美恵子訳) 文春文庫

 メイン州ヘイブンの森で、西部ものの作家ボビ・アンダーソンが犬の散歩中、何かにつまづいた。そして、ボビは掘り始めた。どんどんどんどん。でも、なんだかおかしい。愛犬のピートは、まるで若返ったかのように動作が機敏になり、そして……なんだか凶暴になった。ボビもまた、身体に異変を感じている。誰かに相談しなきゃ。でも掘らなきゃ。
 そのころ、ボビのかつての恋人であり詩人のジム・ガードナーは、人生で何度目かの転落を経験していた。アルコール中毒で妻に銃を向けたことがあり、チェルノブイリの原発事故には一家言あるジムは、詩の朗読キャラバン中、支援者と大喧嘩してしまったのだ。行く先のないジムの頭の中にこだまするのは、ボビが大変なことになっている! ということ。そしてジムは、ヒッチハイクを重ねて、ヘイブンを目指す。そしてようやくたどり着いたジムが見たのは、驚くべき光景だった。
 変貌する("進化"する)人々が、それを外部にさとられないようにしているのだが、頭の中に金属の入った人々だけは、進化したヘイブンの人々でも頭の中を読み取ることができず、しかもある程度気分は悪くなったとしても、ヘイブンの中に生きて入ってきてしまう。ということで、戦争中に頭に金属片が埋め込まれたままになってしまったジムや、ほぼすべての歯に歯冠がかぶせてあるボビの姉アンの他、気丈な老人や特ダネを追う新聞記者など、ヘイブンの人々にとっては非常に厄介な人々の頭に金属が入ってるところが、物語をより一層おもしろくしている。中でもジムは、変貌していく人々の味方なのか敵なのか、最後まで悟られることなく森の中で"船"を掘り続けるボビの手助けを続け、ヘイブンの人々を苛立たせる。
 繰り返されるトミーノッカーズの詩や、ヘイブンのひとりひとりを丁寧に描写し、物語を盛り上げるところなど、さすがキング。他の小説と関連する脇役なども登場してきて、その点でも楽しめるつくりになっている。物語が加速度的に進行する下巻後半は見事。楽しめます。



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