―――おいでよ、トム。大時計が十三時をうったよ。きみは、いったいどうするつもりなんだ? 
  「トムは真夜中の庭で」 フィリパ・ピアス作(高杉一郎訳) 岩波少年文庫

 仲良しの弟ピーターがはしかにかかったために、家から遠く離れたおじさんの家に預けられることになったトム。おじさんの家は庭のないアパートで、ごみごみした小さい家に囲まれているつまらないところだ。遊び友達もなく遊ぶ場所さえないところで、退屈な毎日を過ごしていたトムは、けれどある夜、大時計が十三時を打つのを聞く……。
 ありえないはずの時間、一日のうちの「あまり」の時間を自由に使おうと考えたトムは裏口の扉を開け、そこに広がる大きな庭を発見する。そしてトムは、トムのことを幽霊だと思っている小さな女の子、ハティと出会い、毎晩楽しい時間を過ごすようになる。けれど、ハティはどうやらどんどん大きくなっているようで……
 扉を開けるとそこは異世界、という話はそう珍しくない。「ナルニア国物語(C・S・ルイス)」や「銀のほのおの国(神沢利子)」「扉を開けて(新井素子)」などがすぐに浮かぶ。美しい庭園で遊ぶ子どもたちの話も「秘密の花園(バーネット)」「マンディ(ジュリー・アンドリュース)」などがあるだろう。けれど、この本のラストは衝撃的だ。実際、わたしはこの本の最後を読んだとき、身体がふるえた。その理由は、この本をすべて読み終わったあとで、作者の言葉を読んでもらえばわかると思う。あまり多くを書くとネタばれになってしまうのでやめておくが、作者の「わたしたちはみんな、自分の中に子どもをもっているのだ」という言葉を忘れずにいようと思う。子どものころだけでなく、大人になって読み返しても、また新たな感動のある一冊。


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