「―――僕たちは、光の子供だ」
         
 「光の帝国――常野物語―――」 恩田陸 集英社

 一見ばらばらにみえるいくつかの物語。しかし、読み進めるうちに登場人物たちの名前に重なりが見えはじめ、ひとつの大きな物語へと収斂していく、そんな気持ちになる本だ。
 たとえば、膨大な量の書物を暗記する(「しまう」)力をもっている春田家では、子どもたちは自分の書見台に本をおいて、その内容を次々に「しまって」いく。自分がなんのためにこんなことをしなければならないのか、どうしてこのことを他人には黙っていなければならないのか疑問をもつ光紀だが、ある日、目の前で老人が亡くなったことで生涯忘れられない経験をする……―――
 その他にも、未来を見通す力をもつ者や、空を飛ぶもの、火をつける力をもつもの、常野という地そのものがもつ不思議な力……などなど、ここに収められている話はさまざまだ。けれど共通しているのは、これが決して派手なSFではなく、こじんまりと、どこか牧歌的なほどに上品な古さを漂わせているということ。書見台や小さな茶碗など、小道具も洒落ている。
 さて、「常野」とは権力を持たず、群れず、常に在野の存在であれ、という意味を持っている。ゆえに彼らはひっそりと身を隠すようにしているのだが、物語が進むにつれて、彼らは少しずつ集結していく。そのことの意味はなんなのか。常野の人々が世界に求められるその理由は、なんなのか。
 これはまったく個人的な意見だが、おそらくその理由の一端が描かれているのが表題作である「光の帝国」。この話自体は、戦争、暗い時代、そんな中で心を傷つけられた子どもたちと先生がゆたかな自然の中で育んでいく愛情が中心になっている。けれど、そんな穏やかでのどかな生活にも戦争の暗い影が忍び寄ってきてしまい、子どもたちの夢は無残にも引きちぎられてしまう。後半部分の子どもたちの絶望感、哀しみは圧倒的だ。そして、ラストにある子どもたちの言葉。
「光の帝国」に描かれている時代と、いま現在われわれが生きている時代を思うたび、常野の人々が集結している理由は……と、考えずにはいられない。


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