しかたがない、ぼくはここではアンドルーなんだ。アンドルーならやるっていうんなら、やるしかない。
          
「時間だよ、アンドルー」 メアリー・ダウニング・ハーン(田中薫子訳) 徳間書店

 ぼく、ドルーは十二歳。考古学者のお父さんとお母さんがフランスにいっている間、ひいおじいさんと大叔母さんの住む幽霊屋敷のような古い家に預けられることになった。お父さんにまでこわがりで臆病でびくびくしているといわれているドルーにとって、その屋敷は恐ろしいことでいっぱい。長くて暗い廊下、ぎしぎしときしむ階段、なにがあるのかわからない屋根裏部屋。しかも大叔母さんにつれられていった屋根裏部屋でビー玉を見つけた日の夜、ドルーのところにドルーそっくりな男の子が現れ、「ビー玉を返せ」とつかみかかってきたのだ!
 泣きながら謝るドルーだったが、相手の男の子はそう簡単に許してはくれない。しかもジフテリアにかかっていまにも死にそうなその少年はアンドルー、ずっと以前に幼くして死んでしまったはずの少年なのだ。ついうっかり、いまの医学ならほとんどの病気が治せるよ、といってしまったために、ドルーはアンドルーと入れ替わることになってしまう。
 同じ名前、うりふたつのふたり。けれど、アンドルーは1910年に住むいたずらっこで、ドルーはアンドルーのふりをすることができなくて最初のうちはまごまごする。けれど、厳しいけれどやさしい父さん、母さん、美しい姉のハンナ、アンドルーをほとんど崇拝するように見ている弟のテオ。彼らに囲まれて暮らすうちに、いつしかドルーもまた、たくましい少年へと成長していく……。
 古きよき時代、ドルーとアンドルーが互いの入れ替わりをかけて行うビー玉遊びなど、非常にリアルに描かれている。物には恵まれているけれど、ひとりっこでさびしい生活をしていたドルーが、家族に囲まれて成長していく姿はすばらしい。最後まで目が離せない物語だ。


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