「あなたは、最期の瞬間、だれといたい?」
                   「デス・タイガー・ライジング」
 荻野目悠樹 早川書房

 二重太陽系の一惑星ベルゼイオンは、千年に一度の太陽の接近期<夏>を迎えようとしていた。<夏>の恐怖から逃れるため、大統領は同じ星系のアル・ヴェルガスに避難民受け入れを申し出るが、アル・ヴェルガスはそれを拒否。生物学的には同一種であっても、異星人である――として、宣戦布告を突きつける。そのころ、首都クローゼンナイツに暮らす医学生、巨大広告代理店の娘ミレーナ・ロシコフは、成り上がりの名を払拭したい父と、その父の財産を求める由緒ある名家ミツタ家の思惑により、政略結婚を持ちかけられていた。相手は画学生のキバ・ミツタ。外見もさほどぱっとしない相手との政略結婚など、さっさと断るはずのミレだったが、地下組織にかかわる兄ミハイルの頼みでキバとつきあううち、彼の繊細な優しさや、画家になるという夢に気づいていく。しかし、激しさをます戦争は、人間を戦闘の機械へと変える実験を極秘に進め、適応者を戦うことのみに特化した<虎>へと変えようとしていた。そして、その適応者リストには、キバ、そしてキバの従兄クリス・ミツタの名前もあった。
 ミレを救うために<虎>となったキバ。そんなキバを追うため、軍医となったミレ。膠着する戦況の中、ふたりは思いがけない再会を果たすが……――
 全4巻。戦争が長引けば長引くほど、司令部の愚かさが目立ち、無駄に命が奪われてゆく。異星人という憎悪感情だけで動いていても、実際に個人レベルで知り合ってしまえば、同じ人間。大局とは別のところで、悩みがあり、つながりが生まれる。同じように、<虎>となったはずのキバも、ミレとの再会によって、本来<虎>からは失われたはずの感情がよみがえり、悩みや迷いを持つようになる。
 大前提(そもそも、ミレがそんなにキバのことを好きになっていたとは思えない……わたしがどこか読み飛ばしているのか)を無視すれば、親の思惑とは別のところで惹かれあった恋人たちが、さまざまな苦難を乗り越えて別離と再会を繰り返す物語。戦時下ということもあり、これでもかという苦難が続くところも見どころ。ところどころラノベ風漢字使用法なども見られるが、大前提を無視すれば(くどい)、楽しめるSF。オススメ。



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