――こんなに一人は嫌だと思うのに、いつも一人で取り残される。
          
 「パラダイス・サーティ」 乃南アサ 新潮文庫

 薬品会社OLの大山栗子。気づけば年下の女の子たちが寿退社していくなか、見合いも断られ、御局扱いされてきりきりしている毎日。誕生日だというのに家族にさえも忘れられ、耐え切れずに家を飛び出した栗子のむかった先は、高校時代からの親友、菜摘の家だった。
「あの頃、まさか三十近くなった自分達が、こんなになってるなんて思いもしなかったわ」
「二十四か五で結婚して、可愛い奥さんになって、三十歳までには絶対にお母さんになってると思ってた」
 オナベの菜摘のブリーフを畳みながら愚痴る栗子。
 そんな栗子が、菜摘が経営するバーの常連客古窪伸と恋に落ちる。洗練された話術と優雅な物腰の伸に夢中になった栗子は彼との結婚を夢見るが、伸の隠された素顔を知ってしまった菜摘は、そんな栗子に反対。オナベの嫉妬だと思い込んだ栗子と菜摘との仲はぎくしゃくするが、そんな中、とんでもない事件が起こる――
 ひとにススメられた本だったのだが、最初は三十前の女の話を読んでもねえ、と思っていた(苦笑)。栗子の焦りは見苦しいし、一方的に盛り上がる恋愛も可愛いとはとてもいえない。だが、読みすすんでいくうちに、実はこの話は栗子や菜摘の恋愛を描いた物語ではなく、ふたりの友情ものなのだと気づき、がぜん、おもしろくなった。
 慣れ親しむと侮りが生じる、という言葉もあるが、ふたりはまさしく言いたい放題、ときには互いに互いのことを可哀想だと思い、うらやましくも思う、そんな関係。独身の女同士って確かにこういうとこ、あるある! と感じさせる場面がいくつもあり、その点でもうまい。二十代は焦りやいやなことでいっぱい、三十代は毎日がお祭り、パラダイス――かどうかはともかくとして、実際、二十代後半から三十代前半の女性は一度読んでみることをオススメする。自分に栗子や菜摘のような親しい友人がいる人は、違った意味でも楽しめることだろう。



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