(ああ、何年こうしてひとりでいることか。話さず。笑わず……俺は昼寝ばかりするライオン。
夢の中でなら、彼らは俺に仲良く話しかける。だから、俺は昼寝の好きなライオンになってしまった)
―――ライオンは、うなだれた。
                     
「夕陽のなかを走るライオン」(「てつがくのライオン」)
                                         工藤直子 フォア文庫


 「いきものたち」に収められているライオンは……ライオンだけじゃなくて、ひぐまも、ちびへびも、みんなさびしい。でかいひぐまはセメントに腹をのせ、東京の空を見上げている。散歩をしたいちびへびは、こんにちわというと小鳥に逃げられ、いたちにすごまれ仲間に笑われ、かなしいこころを抱えて家の中で丸くなる。暑い暑い暑い動物園のハンカチほどの日陰で涙ぐむライオン。
 けれど「出合いのものがたり」に収められているくじらやいるかやライオンは(のちに彼らが「ともだちは海のにおい」「ともだちは緑のにおい」で活躍するのだけれど)、ようやくほんとうのともだちを見つけることができて、笑顔になっているかのようだ。
 「てつがくのライオン」を含め、ほとんどは「ともだち……」に収められている話だが、この「夕陽の中を走るライオン」だけはどうやらろばやかたつむりと仲良しのライオンとは別のライオンらしい。話がしたいだけなのに逃げられて、悲しくて悔しくて、だからあいつらを食べてやるんだ! と泣いているライオンのさびしさは、かたつむりやろばとあっというまに仲良しになってしまった「てつがく」をするライオンにはなかったものだ。だからこそ、彼ので合いのものがたりがわたしはいちばん好きだ。
 ともだちができて、(すてきすてき)と胸がはりさけそうな気持ちになるライオンがとてもとてもいとおしい。



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