「ここで暮らした十二年間で、わたしが教えられた中で一番大切なことは、夢見であれ現実であれ、自分の目でしっかり観察することと、自分で考えることです」
               
 「天山の巫女ソニン」 菅野雪虫 講談社

 天山に住む十二人の巫女は、<夢見>をすることで人々の生活の役に立っていた。だが、赤ん坊のときに天山に連れてこられたソニンは、幼いときの力を失い、巫女になる素質がないため、見込み違いであったとして十二歳のとき山を下ろされる。大巫女の期待を裏切った落ちこぼれ。しかし、里にはソニンを待ち続けてくれたやさしい姉のユナをはじめとした家族がいて、ソニンを温かく迎えてくれる。ふつうの娘として、畑や家畜の世話をして暮らしはじめたソニンは、ミンという同年齢の友人も得て、徐々に、世の中には暮らしに困る貧しい人々がいること、働いても働いてもよくならない生活があることを知る。だが、幼いソニンには、それをどうすることもできないのだった。
そんなある日、ささやかな出来事をきっかけにして、ソニンはふたたび親元を離れることになる。新しい職場は、王宮。口のきけない七番目のイウォル王子の身の回りをするために雇われたソニンだが、王子にはもうひとつのもくろみがあった。少しずつ王宮での暮らしに慣れはじめたソニン。しかし戦争を間近に控えた王宮内には、ひそやかな陰謀がめぐらされていて……――
 誠実で前向きなソニンは、長いあいだ世俗とは離れた生活をしていたために、ややズレたところもある。しかし、そんな彼女を温かく見守る家族や、友人のミン。そして、危機に陥ったときにも、ソニンの誠実さは彼女自身をも救うことになるのである。
1巻のときには悪役(この人は最後までえんえん周囲に影響を与え続ける……すごい存在感)の個性に比べると、王子連中はじめ登場人物全般があまりにも能天気で、これでいいのかと思ってしまったくらいなのだが、2巻以降、隣国江南のクワン王子や巨山のイェラ王女など、ひと癖もふた癖もある人々が出てきて、物語は大いに盛り上がる。
 地の文章はわたしの苦手な「です・ます」調だが、それも気にならないくらいおもしろかった。オススメ。




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