「スープ作ってあげる。手も握って」
               
 「天使の牙から」 ジョナサン・キャロル(浅羽莢子訳) 創元推理文庫

 「おれ」、ワイアット・レナードは、白血病で死にかけている元テレビスター。自らの死を見つめ、死と向かいあって生きる彼にむかい、死にかけている彼だからこそできることだと……親友のソフィーが行方不明の兄の捜索を依頼する。白血病で、立っていることさえつらいことがあるというのに、そんな自分に何ができる? だが、ソフィーの頼みも筋の通らないことではなかった。ソフィーの兄ジェシーは、夢の中で死神と出会ったという男の話を手紙に書いてきた後に姿を消したのだから。死神と取引できるのは、すでに死ぬことが決定している自分がふさわしい、と……そんな理屈にも合わぬ理屈で、ヨーロッパまで飛ぶワイアット。
 一方、物語はハリウッドの人気女優、アーレン・フォードについてのものへと移り変わる。親友でありマネージャーでもあるローズの視点から、そしてアーレンの手紙から、突然引退したアーレンにおとずれた激しい恋が描かれる。
 死神を探すワイアットと、幸福な恋に酔うアーレン。このふたりの物語が交錯したとき、思いもかけない世界が浮かび上がってくる。
 死神とは、いったいなんだろう? 死神と、死と闘うこと、そしてその闘いに勝つことなんでできるのだろうか?
「人生でほしいと思うものには、必ず牙があるのよ」
 幸福の陰にある暗い部分まで丹念に描きながら、暗闇の中にある一筋の光もまた見事にすくいあげた作品である。



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