「私たちは一つの墓にいる」
           
   「天涯の砦」 小川一水 ハヤカワSF文庫

 壊滅的な事故によって軌道ステーション<望天>が破壊された。<望天>の一部、第四扇区と、接続されたままになっている月往還船<わかたけ>が無数の死体とともに漂流を始めた。気密区画に残された数名は、声だけの接触を通じて互いに励ましあい、なんとかして生き延びようと試みる。中でも、惑星間航行士の試験を落ちたばかりの二ノ瀬英美は、自らの持つ知識を駆使して、なんとか全員が生き延びようとする方策を考えていた。しかし、実は彼らの中には、このまま救出されることを望まない者や、破壊行為そのものに関わっている者もいたのだ。ただ泣くことしかできない幼い兄妹、憎しみ合う少年少女、医者と犬、レスキューオペレータ……見知らぬさまざまな立場の人々が、それぞれの思惑で動く。彼らは生き延びることができるのか? 
 壁ひとつ向こうは真空。宇宙服のない状況では、ドアを開けることがイコールで死につながる。手持ちの食糧もわずか。残された酸素量を計算してみたところで、本当に密閉されているかどうかは定かではない。ある意味では「復活の地」よりも究極のサバイバル状況だが、一方で、長さは1冊分(「復活の地」は3冊)しかないので、事故が起きてから物事が収まるまでは短い。シーンを細かく変えて、登場人物たちそれぞれの姿を描いていることからみても、極限状況からどう生き延びるか、というよりもむしろ、その状況で人間がどのような姿を見せるのか、見せてしまうのか、ということに重点が置かれているといってもいいだろう。
 生きること、生きようとすることの意味は何か。SFだからといって侮ってはいけません(でも、「復活の地」のほうがオススメ←苦笑)。



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