このご時世、私たちの仕事は、別のホテルにとってはひょっとすると必要のないものになりつつあるのかもしれませんが、この帝国ホテルにおける私たちの仕事は、すごく重いものであると自覚しています(ベルマン 二宮修平)。
          
   「帝国ホテルの不思議」村松友視  日本経済新聞出版社

 帝国ホテル。この本は、帝国ホテルで働く人々に光をあてたノンフィクション。総支配人、総料理長といったいわゆる「顔」の人々だけでなく、ドアマン、ベルマン、フロント、ソムリエやルームサービス、はては氷彫刻やベーカリー、施設・情報システム担当役員まで。帝国ホテルにかかわるすべての人に焦点をあてている。
 ここから伝わってくるのは、「職人気質」のようなものである。自分の仕事を語るときの言葉の選び方。責任感。にじみ出てくる人生観。余暇の話に夢中になる姿に、ホテルマンとしての姿が透けて見えてきたり、明るく語るパティシエの姿に、かつてのバスケットボール部員の姿を見たりする。筆者のあたたかな視線が、そのままにじみ出てくるような本になっている。
 それにしても、なんと魅力的な人々ばかりなのだろう。自分の仕事に自信と責任を持ち、誇りをもって日々を過ごしている人たちはうつくしい。いきいきとしている様子が伝わってくるし、こんな人たちが迎えてくれる帝国ホテルというところに泊まってみたい……せめてラウンジやレストランに行ってみたい、という気持ちにさせる。
 帝国ホテルだからこそのおもてなし。歴史と伝統を守りつつ、そこに確かに息づく「いま」を大切にしたホテルの姿がある。
 ホテル業やサービス業に興味のある人、帝国ホテルに興味のある人、そうでなくても、とにかく「働く」ってどういうことなのかをのぞいてみたい人。いろんな気持ちで読むことができると思う。オススメの一冊。




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