「相手は異星人だぞ。どうして地球のそれも一島国にしか現存しない宗教のことを知っているのだ」
「それはわかりません。とにかく<人類圏>はモンドーを挑まれているのです」
          
「銀河帝国の弘法も筆の誤り」田中啓文 ハヤカワ文庫

 22世紀後半、人類が待ちに待ったファーストコンタクトがなされた。それは5万光年ほど離れたシラカベ星系からの亜空間通信。しかし、メッセージの解読は容易だったが、その内容は理解に苦しむものだった。
「ブラックホールの中にホトケはいるかおらぬか。そもさん」
 なんと、人類は宇宙の彼方から禅問答を仕掛けられたのだ。しかも相手は、これに答えられなければ全面戦争も辞さない構え。かくして、<人類圏>を救うため、千四百年前に生まれ、入定した――つまりは不老不死となった空海をよみがえらせることを決定する。
 ああ、バカらしい(褒め言葉)。
 なにせ、このモンドー、このようになる。
「ブラックホールの中に仏はいるかおらぬか!」
「仏の顔もサンドイッチ!」
「むむ……」

 むむ……じゃないだろう!
 まあ、この手の話がてんこ盛りの短篇集。好みは激しく分かれると思う。わたしは嫌いじゃないのだが(笑)。これをオススメしたことで見識を疑われても困る。とか思わないでもないけど、SFって、「SFバカ本」という本もアンソロジーからもわかるように、こういうバカっぽさが楽しいっていう部分は絶対にある。その点、この作家は突き抜けちゃってるおもしろさである。
 ひとつひとつの短篇の後ろに、小林泰三、我孫子武丸、牧野修といったメンバーが「田中啓文批判」を解説代わりに載せている、というのもよい。
 個人的には「火星のナンシー・ゴードン」とか「銀河を駆ける呪詛」などが好みであって、「嘔吐した宇宙飛行士」は……気持ち悪いです。しばらくピザは食べたくない感じです。



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