「ぼくらが住んでるところは、ほかのいくつもの場所の上に積み重なってるみたい。なんだかさびしい気持ちになってくる」
「なぜ?」
「だってぼくは、ここに縛りつけられてるんだもの」
           
「タンジェント」グレッグ・ベア(山岸真編) ハヤカワ文庫

 ある日、ピーターとローレンの生活の中に現れた韓国人の少年、パル。音楽好きのその少年は、ピーターの四次元立方体の研究を苦もなく理解した。少年には高次の次元が「見える」のだ。そして少年は、向こうの人々のために音楽を弾いてやりたいという……――
 アメリカに養子にもらわれ、養母との折り合いの悪い孤独な少年と、やはり同じようにさびしい過去を持った男が出会ったとき、不思議な出来事が起きる。けれど、このさびしい読後感はどうしてだろう。わたしがここに縛りつけられているからだろうか。
 短編集。「永劫」に続く単語をいくつか共有する「炎のプシケ」などばりばりのSFもあるが(しょっぱなにこれだと、SF初心者ではくじけてしまうかも)、どちらかといえば、やわらかいファンタジーに近いようなSFが多く収められていて、初心者向けのはず。
 中でも「姉妹たち」はある意味、イーガンのとある短編を思い出される方もいるのでは…と思える作品だ。
 「事前に設計された子どもたち」――選び抜かれた遺伝子を持ち、誰もがほどよい分量の皮下脂肪をもち、美貌でかつ個性的になるように設計され、性格は温和にして快活。宇宙空間での職業に適合するように設計されているから頭もいい。いまは、そんな子どもたちでいっぱいだ。高校生700人のうち、「自然のまま未加工無修正の染色体」の所有者はリティーシャを含めて10人だけ。わずかに太り気味で縮れ毛にだんご鼻で話し下手、授業だってついていくのがやっと。そんなリティーシャが「あなたにしかできない」と劇での老婆役を依頼されて傷つくところから物語は始まる。両親はどうして自分を設計してくれなかったのか。どうしてこんなに傷つかなくっちゃならないのか。けれど、あることをきっかけにして、リティーシャは自分を受け入れることを学んでゆく。そして、リティーシャが気づいた大切なこととは。
 なんだか古そう、SFなんてわからない、とはいわずに、読んでもらいたい。胸のせつなくなるような物語もおさめられている、すてきな短編集である。



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