「成島。これは俺のエゴじゃないぜ。高校を卒業しても俺たちの人生は続くんだ」
             
「退出ゲーム」(「退出ゲーム」所収)初野晴 角川書店

 「わたし」、穂村千夏、弱小吹奏楽部に所属するフルート担当、顧問の草壁先生に片想い中だが、そのライバルはあろうことか幼なじみの成島春太、ホルン担当。小柄だがムダのない身体つき、きめの細かい肌、長い睫毛、そして極めつけは二重のまぶた。千夏がほしいと思うパーツをすべても持った、頭脳明晰な美少年だ。ふたりは草壁先生への想いを胸に、先生を普門館の舞台に立たせることを夢見て、今日も今日とて部員探しに奔走する――のだが。中学時代に吹奏楽部に所属していたはずの面々は、いずれもくせのある連中ばかり。ちょっとやそっとの勧誘ではなびいてくれないばかりか、六面すべてが白いルービックキューブの完成を求めてきたりする。しかも、弱小文化部が生き残るためには、文化祭や生徒会ともかかわらねばならないが、これまたいずれも変わり者ぞろいで、チカとハルタは心ならずも学内のさまざまな事件にかかわっていくことになる――
 系統としては米沢穂信の古典部や小市民シリーズのように、高校生が学内で発生する謎を解くというミステリ。加えて、吹奏楽部員を増やそうとするふたりの努力や、草壁先生への恋も絡み(しかもまだ明らかにされていないが、草壁先生自身にも何やら謎がある)、さわやかな青春小説に仕上がっている。
 主人公のチカがワトソン役に徹しているのがよい(とは本人は思っていないだろうが)。謎を解くのはいつだってハルタ。しかし、チカもたまには最後においしいところをもっていく、あたり、最強のコンビだともいえる。引きずり込んだ吹奏楽部員も増えて、今後が楽しみな作品。当然、シリーズ化してくれることと思う。



オススメ本リストへ