「どうせ大人になったら、人殺しになるって決めとるんじゃから」
         
    「タチコギ」三羽省吾  幻冬舎文庫

 祖母が亡くなり、三十年ぶりに故郷に戻った柿崎信郎。同行した息子は夏休みに入る前から不登校で、従姉弟たちとも打ち解けようとはせず、ゲームばかりに目を向ける状態。父から息子のことをあれこれたずねられるのがいやで家を飛び出した信郎がたどりついた飲み屋には、昼間、世話になった葬儀屋と、やけになれなれしい店主、酔いつぶれた中年男がいた。彼らは自分の知り合いなのか……? そんなこともわからぬまま、いつしか、信郎は父には語ることのできなかった、息子の話を始める。
 物語は、信郎がノブと呼ばれていた三十年前の出来事と、現在とが交互に語られる。現在の話は非常に少なく、メインはノブの少年時代。鉱山のある町では貧富の差も激しく、それが子どもたちの生活にまで影響している。どんなにがんばっても越えられない貧しさがあり、それでも、毎日全力で生きて、ぶつかって、叱られて、殴られて、「生きて」いた日々。そしてそこには、ノブを囲む友人たちがいた。身体が大きくガキ大将のウネリン、酷い蓄膿症でいつも口を開けているチクワ、仲間のなかで唯一山の手に住んで情報通を気取るが誤情報ばかり流すタカオミ、クラスのだれよりも貧しくて、いつも怪我をして口数の少ないガボちゃん。クラスには他にも、格好つけて変な標準語を話すダゼ夫や、かわいいニシナなどがいて、ノブの生活は毎日いろんなことが起こる。けれどある日ノブだけが知ってしまったガボちゃんの秘密。暗い目をして、大人になったら人殺しになると口にしたガボちゃんを、ノブはどうしてやることもできなくて……――
 少年時代に起きた大事件と、いま、息子が抱えているかもしれない心の闇。ノブの中に消しがたくひそむ恐れが、いつしか静かに浮かび上がってくる。
 パワフルな少年に圧倒されて読み進めていると、最後に感動的などんでん返しが待っている。読まなきゃ、損です。



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