なぜ人は何の抵抗も出来ない幼児を虐待しなければならないのか。
 繰り返し自らにそう問いかける。
   
   「スイート・リトル・ベイビー」牧野修  角川ホラー文庫

 保健所で児童虐待の電話相談を受け付けている丸山秋生のもとには、日々さまざまな相談がもちかけられる。児童虐待ホットライン。その電話にすがり、秋生に頼らざるを得ない母親たち。秋生自身、かつて育児ノイローゼになりかけていたところを保健婦に救われたという過去があった。抱きしめても抱きしめても至らぬ想い。切なくなるほどのいとおしさ。それは幼児が持つ圧倒的な『力』であるはずなのに、人はなぜ子どもを虐待しなければならないのか……。答えのない問いであると思っていた秋生だが、ホットラインにかかってきた一本の電話が彼女を答えに導くこととなる。かつての相談者則子が、夫の幸彦が仕事のためと称してマンションを借りている、そのマンションに行ってみると何かの気配がする……といい出したからだ。成り行きで則子とともに幸彦のマンションに行った秋生は、そこで天井裏に消える幼児の指を見てしまう。じんわりとした恐怖にかられる秋生。幸彦のかつての恩師辻村が語る『天使』とは。
 ストレスの多い仕事に打ち込む秋生の日々を丹念に描く前半は、自分の努力が報われないときの徒労や人手不足からくる疲労、その隙間から浮かんでくる己の過去、そういったものに、仕事を持つものとしてはどこかしら共感しつつ読んだりもしてしまう部分である。とはいえ、それがそれで終わらないのが牧野。『天使』が出てくるに至って、人はなぜ幼児を虐待しなければならないのか……という問いに具体的な答えが与えられる。もちろん、牧野自身が児童虐待をどう考えているのかというのはあとがきに記してあるとおりだし、実際読み手としても軽々に扱ってよいテーマではないのだが、この世界の壊れ方がさすが! と牧野ファンはわくわく(非常に不謹慎ながら)してしまう部分なのだ。牧野ファン以外の方には……オススメできないかもなのだが……(弱気)。



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