暗い空間を長いあいださまよっていたわ、あなたの目をのぞきこんでいる自分に気づくまで。あなたを知っているような気がしたの、この目であなたを見たことは一度もないのに。
    
 「カリスタの石」 マリオン・ジマー・ブラッドリー(阿部敏子訳) 創元推理文庫  ダーコーヴァ年代記9

 地球帝国職員アンドリュー・カーは山奥でひとり遭難していた。彼を支えるのは幻の少女。あざやなか赤毛の長い髪、薄地の青いドレス。アンドリューは彼女に会うためにこの惑星、ダーコーヴァに残り、彼女に会うために、このようなところで遭難し、死にかけているのだ。彼女が誰かもわからないのに。占い師の老婆から見せられた幻の少女を追って、アンドリューは必死に生きのびようとする。少女はアンドリューに、カリスタと名乗った。
 一方、コミン貴族デーモン・ライドナウは、アーミダに住む親族、レディ・エレミアの元へとむかっていた。だが、オルトン領アーミダに向かう途中、デーモンは「闇の領土」の噂を聞き、自身も目に見えないキャットマンたちに襲われて部下の多数を失う羽目になる。いったいなにが起きているのか。そして、デーモンは、<監視者>であり、エレミアの双子の姉でもあるカリスタが拉致されたことを知らされる。カリスタはどこにいるのか。デーモンはラランの持ち主としてかつて<塔>で暮らしながらも、あまりに繊細すぎ、傷つきやすいという理由で塔から遠ざけられた過去を持つ。剣の腕に劣り、テレパスとしても劣っている自分に嫌悪を抱き、よりいっそう傷つきながらも、いまのデーモンにはラランを使うことしかカリスタを救う道はない。そんなとき、アーミダ城にひとりの異世界人が訪れた。エレミアの姿をみてカリスタと呼びかけたその男こそ、デーモンにもエレミアにも届かないカリスタと言葉を交わすことのできる存在、アンドリュー・カー。地球人に途惑いとわずかな不安を感じながらも、デーモンはアンドリューとエレミアの<ちから>を借りて、カリスタを奪った存在へと立ちむかってゆく――
 どの地でも孤独を感じながら生きることしか出来なかったアンドリューと、一度みずからを否定されたがために、孤独と自己卑下の中で生きるデーモン。このふたりが、それぞれに愛する女性を見つけ、生きる力を取り戻してゆく話だ、といってもいいだろう。ダーコーヴァ年代記のおもしろさが集約されたような物語である。
 なお時代的にはコミンの統治時代のはじめ。物語中では幼きものとして登場するカリスタとエレミアの弟が、ヴァルダー・オルトン。ケナード・オルトンの父であり、ルー・オルトンの祖父にあたる人物になる。



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